今回の解決事例で書かれている内容(目次)
相談者は「中古ブランド品の買取販売業」を営む株式会社です。
ある日、相談者の店舗に、ブランド品の指輪の買取りを希望する顧客が訪れました(以下では、この顧客のことを「売主」、相談者のことを「買主」といいます)。
売主は、その指輪について、「ブランドの正規販売店で購入した指輪である」と説明しました。そのため、買主はその指輪が正規品であることを前提に金額を査定し、買取ることにしました。
ところが、その後、その指輪はダイヤモンドが後付けされた改造品であることが判明しました。また、その指輪を持ち込んだ顧客自身も、中古ブランド品の買取販売業を営む同業者であることが判明しました。
改造品には正規品の価値がありませんので、契約の無効を主張し、売買代金の返還を求めることにしました。
弁護士が買主の代理人として売買代金の返還を求めたところ、売主は返還を拒絶しました。そのため、訴訟を提起して売買代金の返還を求めることにしました。
売主も弁護士に委任して争ってきましたが、裁判所は買主の請求を全面的に認め、売主から売買代金全額と利息の支払いを受けることに成功しました。
裁判では、「(1)売主の持ち込んだ指輪が改造品か」、「(2)買主に重過失があるか」が問題となりました。
以下、順に説明します。
ブランドの本社に指輪のメンテナンスの依頼をしたところ、「正規品でない」との理由でメンテナンスを断られました。
そのため、買主が保管している指輪が改造品であることは間違いありませんでした。
しかし、売主は、「買主が保管している指輪」と「売主が持ち込んだ指輪」とが同一であるかは不明であると反論しました。
具体的には、売主は、以下のような反論をしました。
民法に以下のような条文があります。
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。
ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
つまり、勘違いをして売買契約をした場合、買主は錯誤であると主張してその契約を無効にすることができます。
しかし、売買契約の時、買主に「重大な過失」があった場合には契約を無効にすることができません。
裁判では、この条文を引用して、買主は指輪が正規品だと勘違いして売買契約をしたため、錯誤により売買契約が無効であると主張しました。
それに対し、売主は、買主に「重大な過失」があるから無効の主張はできないと反論しました。
具体的には、売主は以下のような点を「重大な過失」であると主張しました。
ここでは、担当弁護士による見解をご説明します。
弁護士は、尋問などで、以下のような点を強調し、「買主が保管している指輪」と「売主が持ち込んだ指輪」とが同一であると主張しました。
売主は「1」の点について、買主が保管している証明書と売主が持ち込んだ証明書とが同一であるかは不明であるなどと述べて抵抗しました。
尋問で、弁護士が証明書を売主の目の前に示して確かめた際も、「自分が持ち込んだものかわからない」などと述べました。
しかし、売主自身もブランド品の買取事業者です。それにもかかわらず、自分が持ち込んだ証明書かどうかよくわからないという証言は明らかに不自然でした。
以上のような主張をした結果、裁判官は「買主が保管している指輪」と「売主が持ち込んだ指輪」とは同一であると判断しました。
弁護士は、尋問などで、以下のような点を強調し、買主に「重大な過失」はないと主張しました。
訴訟の序盤、売主は、「仮に持ち込んだ指輪が改造品だったとしても、そのことには気付いていなかった」と主張しました。
指輪が改造品だと知りながら正規品として販売したのであれば、詐欺になりますので、そのような主張をしたものと考えられます。
しかし、そうだとすると、契約時に売主も指輪が改造品であると見分けられなかったことになります。
同業者である売主も指輪が改造品であると見分けられなかったのですから、買主が見分けられなかったとしても仕方がありません。つまり、買主に「重大な過失」はありません。
このように契約当事者の両方が勘違いをしている状態を「共通錯誤」といいます。共通錯誤については、東京地方裁判所が以下のような判断をしたことがあります。
画商同士が絵画の売買契約をしたのですが、後にその絵画が偽物であることが判明しました。しかし、契約当時は、どちらの画商も絵画が偽物であることに気付いていませんでした。
裁判では、民法第95条の「重大な過失」を巡って争われましたが、裁判所は共通錯誤であったため買主に「重大な過失」はないと判断しました(東京地方裁判所平成14年3月8日判決)。
弁護士は、この裁判例も引用して、買主に「重大な過失」はないと主張しました。
以上のような主張をした結果、裁判官も買主に「重大な過失」はないと判断しました。
本件では、最終的に買主の主張を全面的に認める判決が下されました。
そして、買主は、売主から売買代金全額の返還を受けるとともに、返還を請求した時点から年6%の利息の支払いを受けることもできました。
中古ブランド品の買取販売業者からのご相談で、「模造品、改造品、偽ブランド品を買い取ってしまったので、代金の返還請求をしたい」という相談を受けることはよくあります。
その場合、代金の返還を請求するためには錯誤による無効の主張の他に、以下のような様々な方法があります。
これらの方法を法律構成と呼びます。
事案ごとにどの法律構成を選択するかによって、請求の認められやすさや実際に受け取れる金額が大きく変わってきます。
法律構成の選択を間違えたばかりに訴訟の結論が全く逆になることもあります。
そのため、訴訟をするときには、ベストな法律構成を慎重に検討しなければなりません。
また、代金の返還だけでなく、利息の支払いまで受けるためには売買代金の返還を請求した時点を明確にしておく必要があります。そのためには、内容証明郵便などを使って、売主が売買代金の返還請求を受けたのがいつかを証明できるようにしておく必要があります。
古物営業法上、買受け等を行う際、「相手方の住所、氏名、職業及び年齢の確認」が義務付けられています。
所定の確認書にこれらの個人情報を記入してもらっている店舗が多いと思いますが、確認書には、以下のような文言を記載しておきましょう。
そして、確認書を記載してもらう際に実際に口頭でもこの内容について説明し、「確認しました」というチェックボックスにチェックを入れてもらいましょう。
このような手順を踏んでおけば、万が一、買取品が盗品、偽造品、改造品だと判明した場合に、売買代金の返還を受けるために有効です。
売主が盗品、偽造品、改造品を持ち込む場合、本人確認書類としてパスポートを提示するケースが多くなっています。
パスポートは住所が記載されていないため、うその住所を申告することが可能になります。
パスポートや健康保険証など住所のない本人確認書類を提示されるケースは商品の審査をより慎重に行う必要があることに注意してください。
なお、パスポートや健康保険証のコピーから本当の住所を調べることは可能ですので、もし盗品、偽造品、改造品を持ち込まれる被害にあった場合は、早急にご相談ください。
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