派遣先から派遣契約を期間途中で解除されたため、訴訟により解除後の派遣料金を回収した事例
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派遣先から派遣契約を期間途中で解除されたため、訴訟により解除後の派遣料金を回収した事例

派遣先から派遣契約を期間途中で解除されたため、訴訟により解除後の派遣料金を回収した事例

この成功事例を紹介する弁護士

  • 代表弁護士  西川 暢春
  • 咲くやこの花法律事務所  代表弁護士  西川 暢春

    咲くやこの花法律事務所の代表弁護士。出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、病院・クリニック関連、顧問弁護士業務、その他企業法務全般」です。
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1,業種

 

「労働者派遣業」の事例です。

 

2,事案の概要

 

最初に、本事案の概要についてご説明します。

 

(1)緊急事態宣言を理由に派遣契約を事実上途中解約された

 

本件の相談者は、労働者派遣業者(派遣会社)です。

相談者は、派遣先への派遣にあたり、労働者派遣契約書(個別契約書)において、3ヶ月の派遣期間を定めていました。

ところが、この3ヶ月の契約期間中に新型コロナウィルス感染症拡大防止のための緊急事態宣言が発令され、それを理由に相談者は派遣先から一方的に派遣社員の休業を指示されました。

その後、派遣社員の就業は再開されず、事実上、派遣契約が途中解約されたといえる事案でした。

このように派遣契約を途中解約された場合、派遣会社は、派遣社員の新しい派遣先が決まるまで、派遣社員に休業手当を支払うことが必要です。

 

 

そして、労働者派遣法は、派遣先都合の派遣契約の解除の場面について、派遣労働者への休業手当の支払いに必要な費用等を派遣先が派遣元に対して負担するべきことを義務付けています(労働者派遣法第29条の2)。

 

(2)「政府の要請」を理由に派遣先は補償を拒否した

 

本件の派遣先も当初は途中解約後の休業について一定の補償に応じる旨の話をしていました。

しかし、その後、派遣先は態度を変え、緊急事態宣言という前例のない事態で政府からも感染防止対策を求める要請がされたことを理由に、派遣社員の休業は政府の要請に基づくものであるとして、補償を行わない意向を派遣会社(相談者)に伝えてきました。

派遣会社としては、休業を指示された期間中も派遣社員の雇用が続き、派遣社員に本来の給与の60%相当額以上の休業手当等の支払いをする必要があります(労働基準法第26条)。

本件の派遣会社は、休業中の派遣社員に対し、本来の給与の65%相当額の休業手当を支払っていました。

そこで、派遣先からの指示による派遣社員の休業の期間中についての派遣料金を派遣先から回収するため、咲くやこの花法律事務所にご相談いただきました。

 

3,問題の解決結果

 

訴訟の結果、解約後の派遣料金相当額約194万円の内、160万円を回収することに成功しました。

 

4,問題の解決における課題

 

本件の解決にあたっては以下の点が課題となりました。

 

(1)派遣先の支払い能力

 

本件について咲くやこの花法律事務所でご依頼を受けた後、弁護士が派遣会社の代理人として、派遣先に対して、内容証明郵便を送付しました。

 

 

その内容は、派遣先の指示により派遣社員を休業させた期間に対応する派遣料金約194万円の支払いを求めるものでした。

しかし、派遣先はこれに対してわずか40万円の支払いを提示したのみでした。さらに、交渉の過程で、派遣先から資金繰りに不安がある旨の話もありました。

このような不誠実な提示に対して、弁護士から派遣会社に相談のうえ、派遣先に対して、訴訟を起こすことを決めました。

しかし、派遣料金の支払いを求める訴訟に勝ったとしても、派遣先に支払能力がなければ実際に派遣料金を回収することができません。

そこで、訴訟に勝った後に支払いがされないという事態を避けるために、訴訟を起こす前に、派遣先が自社の銀行預金を引き出せないようにする「仮差押え」の手続きを行いました。

銀行預金の「仮差押え」では、相手の銀行預金について銀行名や支店名を特定して裁判所に仮差押えの申し立てをすることが必要です。

本件では、派遣先による過去の派遣料金の支払い履歴から、派遣先の銀行預金口座を特定することができました。そして、請求額の全額約194万円分の派遣先の預金を仮差押えすることに成功しました。

 

 

このように訴訟の前に相手の預金を仮差押えすることで、訴訟に勝った場合にはその仮差押えした預金から直接支払いを受けられることになり、相手の支払い能力についての不安をかかえずに訴訟を進めることができます。

 

(2)緊急事態宣言により派遣契約の解約が許されるか?

 

仮差押えに成功した後に、派遣先に対し、休業を指示された期間に対応する派遣料金の支払いを求める訴訟を提起しました。

裁判で、派遣先は、緊急事態宣言の発令に伴う政府の要請を受けて、感染症拡大防止の観点から派遣労働者の休業を指示したのであり、休業は派遣先の都合ではなく、派遣会社が派遣先に補償を求めることは認められない旨を主張しました。

そのため、緊急事態宣言に基づく政府の要請を理由に、派遣先が派遣契約の途中解約や派遣社員に対する休業を指示した場合にも、派遣会社が派遣先に補償を求めることができるのかが裁判での争点になりました。

 

5,担当弁護士の見解

 

ここからは、担当弁護士の見解についてご説明していきます。

 

(1)緊急事態宣言中の政府要請は派遣契約の維持であることを主張

 

派遣先は、緊急事態宣言に基づく政府要請をうけて、派遣社員の休業を指示したと主張していました。

しかし、そもそも、緊急事態宣言に基づく政府要請は第一次的には在宅勤務を推奨するものであり、従業員を休業させることを推奨したものではありません。

 

例えば、政府の「新型コロナウィルス感染症対策の基本的対処方針」では、「職場への出勤は、外出自粛等の要請から除かれるものであるが、特定都道府県は、まずは在宅勤務(テレワーク)を強力に推進する。職場に出勤する場合でも、時差出勤、自転車通勤等、人との交わりを低減する取組を今まで以上に強力に推進する。」とされています。

・参照:内閣官房ウェブサイト「新型コロナウィルス感染症対策」

 

ところが、本件で、派遣先は、派遣社員に在宅勤務が可能かどうかを検討することなく、一方的に、派遣社員の休業と事実上の派遣契約の途中解約を派遣会社に通知していました。

このような派遣先の対応は、政府の要請とは似て非なるものであることを、まず、裁判上で主張しました。

また、感染症の影響による派遣契約の途中解除については、厚生労働省のウェブサイトに以下の記述があります。

 

「労働者派遣法第29条の2により、派遣先は、自らの都合により労働者派遣契約を解除する場合には、新たな就業機会の確保や休業手当等の支払に要する費用の負担等の措置を講じなければなりません。

新型コロナウイルス感染症の影響により事業を縮小したこと等に伴う派遣契約の解除であっても、派遣先からの申出により契約の解除を行う場合には、原則として、この措置を講ずる義務があります。

(中略)

今回の新型コロナウイルス感染症により、事業の休止等を余儀なくされた場合においても、安易な労働者派遣契約の解除はお控えいただくようお願いします。」

・参照:厚生労働省ウェブサイト「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」

 

このように、政府は、感染症の拡大で事業に影響が出た場合でも、派遣先に対して、安易な労働者派遣契約の解除を控えること要請しています。

つまり、政府の要請は緊急事態宣言中も派遣契約を維持することにあり、派遣先が緊急事態宣言を理由に一方的に派遣契約を解約したり派遣労働者を休業させたりすることは、政府の要請に反していることを、派遣会社の立場から主張しました。

 

(2)雇用調整助成金は支払うべき金銭から控除されない

 

雇用調整助成金とは、従業員を休業させた企業が従業員に休業手当を支払った場合に、国から一定の助成金が支給される制度です。(・参照:雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)

 

本件の依頼者である派遣会社は、派遣先から一方的に派遣社員の休業を指示された後の期間について、この雇用調整助成金を申請して約40万円の助成金を受けとっていました。

裁判で派遣先は、派遣会社が派遣先に対して休業後の期間の派遣料金を請求し、かつ、雇用調整助成金を受け取ることは、「二重取り」であるとして、派遣先に対する請求額から雇用調整助成金の受け取り分を差し引くべきであると主張しました。

この主張に対しても、派遣会社側の立場から、以下の点を反論しました。

 

反論1

 

まず、民法第536条2項において、「債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」とされています。

本件では、派遣会社は、派遣先による休業の指示により、派遣社員を派遣先に派遣するという「自己の債務を免れた」ということができます。

しかし、雇用調整助成金は、派遣会社が派遣義務を免れたことによって得たものではなく、派遣会社が派遣社員に休業手当を支払い、助成金を申請したことによって得たものです。

そのため、雇用調整助成金分は、民法第536条2項を踏まえても、償還の対象にはならないことを主張しました。

 

反論2

 

次に、「厚生労働省の新型コロナウィルスに関するQ&A」においても、派遣先が派遣契約を途中解約した場合に、派遣会社が雇用調整助成金を受給したときも、派遣先において派遣会社に対して、休業手当等の費用を負担する必要がなくなるものではないと記載されています。

裁判でもこの点を指摘して反論しました。

 

反論3

 

さらに、本件では、派遣先が不合理に派遣料金の支払いを拒否し、その後の交渉においても不当に低い支払しか提示しなかったことにより、派遣会社が訴訟を起こさざるを得ず、派遣会社はそのための費用を負担していました。

そのため、派遣会社としても、雇用調整助成金分の利得を得た一方で、弁護士費用や訴訟費用の出費をしており、「二重取り」ではないということも主張しました。

 

(3)強気の姿勢で和解交渉に臨む

 

訴訟において、上記のような議論を進める一方で、派遣先側からは和解案の打診がありました。

具体的には、訴訟提起後しばらくした段階で、派遣先から70万円の支払いの提示があり、さらに審理が進んだ段階で、130万円の支払いの提示がありました。

しかし、当方としては派遣先からの提案には応じずに訴訟を続けました。

裁判所からは、緊急事態宣言という前例のない事態による派遣契約の途中解約の事案であるということもあり、当方の主張を認めるのか、派遣先の主張を認めるのかについて、はっきりとした態度の表明はありませんでした。

しかし、その後、裁判官から140万円の和解提案がありました。

 

(4)判決になった場合の結論を予測して和解をすすめる

 

裁判官からの和解の提案を受けたときは、それを断って判決まで進んだ時の判決の見込みを慎重に検討することが必要です。

本件でいえば、判決になった場合に、派遣先に対して140万円以上の支払を命じられる見込みがあるのかどうかをよく検討する必要があります。

この点、本件では、緊急事態宣言という事情は双方にとって予期せぬものであり、派遣先側の落ち度のある事情でもないことを踏まえると、和解ができずに判決になれば、請求額の一部が認められず、判決の内容が140万円を下回る可能性も十分に想定されました。

また、本件で、派遣会社は、休業中の派遣社員に対して、本来の給与の65%相当額を支払っていましたが、逆に言えば給与の35%分の支払いは免れていました。

それにもかかわらず派遣料金の満額を請求できるのかという問題点もありました。

この点については派遣先側の弁護士からは主張がなかったものの、裁判を続けていけば議論の対象になる可能性があり、そうなれば、判決において支払いを得られる金額が140万円を下回ることにつながる可能性もありました。

このように、判決になれば140万円を下回る可能性も高いと考えられたため、本件では、請求額満額でなくても、和解に応じることを決めました。

ただし、裁判官から提案があった140万円ではなく、160万円の支払いを求め、これよりは1円も減らせない旨を伝え、強気の姿勢で交渉に臨みました。

その結果、最終的に派遣先も160万円を一括で支払う内容での和解を了解しました。

さらに、もし、160万円の支払いが遅れた場合は年利18パーセントの遅延損害金を支払うという条項もつけて、和解をまとめることができました。

 

6,解決結果におけるまとめ

 

本件は、緊急事態宣言という前例のない事態において、派遣契約の途中解除をした派遣先が派遣会社に対して補償責任を負うのかどうかが問題になりました。

過去の判例なども参考にできない内容で結果の予想も難しいものでしたが、派遣先からの低い金額提示を断り、訴訟を続けた結果、一定の成果を上げることができました。

訴訟の前に派遣先の預金を仮差押えしており、勝訴した場合に派遣先の資金不足などを理由に支払いがされないというリスクをあらかじめ排除していたため強気の交渉ができたという点が、このような成果をあげることができた要因の1つになりました。

緊急事態宣言が原因か否かにかかわらず、派遣契約の安易な途中解約・途中解除は許されません。派遣契約の途中解約・途中解除のトラブルでお困りの際は咲くやこの花法律事務所にご相談ください。

 

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8,【関連情報】この事例に関連した解決実績

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他にも、今回の事例に関連した派遣関係の解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。

 

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