今回の解決事例で書かれている内容(目次)
「情報通信業」の解決事例です。
本件は、相談者が多大な時間と費用をかけて制作・配信している有料ニュース記事を、無断で複製され利用されていた事案です。
相談者は、記事制作に多大な労力を費やしており、その無断利用に対して強い憤りを感じていました。
記事が電子データとして配信されている特性上、その複製利用は技術的に容易であり、侵害を放置することにより、損害が拡大するおそれがあります。放置すると、第2、第3の侵害者が発生するおそれがありました。相談者は、これらを防止するために、相手方が違法行為を行なった事実を明確にしたいとのご希望をお持ちでした。
そこで、弁護士は、相談者の意思に沿った解決を目指し、問題の所在をあいまいにしたまま和解することは避けて、侵害した相手方と交渉することにしました。
弁護士が相手方に対し、内容証明郵便により、相手方の著作権侵害行為を指摘して、交渉しました。その結果、相手方は、侵害の事実を完全に認め、謝罪しました。また、相談時には把握できていなかった無断利用の実態を開示させることに成功しました。そして、それに基づいた十分な損害賠償を獲得しました。さらに、再発防止についても明確に約束を取り付けました。
相談者には、今回の侵害について、自社の記事を無断利用する相手方に対しては、毅然と対応することを示す事例としたいというご希望がありました。そのために重要だったのが以下の(1)~(3)です。
相談者が侵害の差止請求や損害賠償請求をするためには、相手方による記事の無断利用の全容を解明する必要があります。しかし、相談者は、無断利用の一部についてしか証拠を持っていませんでした。そのため、侵害行為の全体像を把握するためには、どの記事を、いつ、どのように利用したのかを相手方から開示させる必要がありました。
また、こちらが全容を把握していないことから、相手方の開示内容に虚偽がないかを判断する必要もありました。
無断利用されたのは、有料ニュース記事でした。相談者の記事を利用する場合、相談者との間に記事利用のための契約を締結し利用料を払う必要があります。今回は、相手方が相談者に無断で利用していますので、相談者に損害が発生しています。その損害賠償額をどのように考えるかも問題となりました。
相手方が保有している記事データは、相談者に無断で複製されたものです。そのため保有している記事については削除を求める必要がありました。また、違法な利用について謝罪させ、再発防止の約束も求めることとしました。
相談者の作成した記事は、相談者が取材に基づき作成したものであり、相談者の著作物です。相手方が相談者との利用に関する契約を締結せずに記事を無断利用する行為は、相談者の著作権を侵害するものと言えます。
よって、相談者の希望を実現するために、相談者の著作権が侵害されたことによる請求をすることとしました。
相談者は、相手方の無断利用について、いくつかの記事を複製していたとの証拠をつかんでいました。しかし、それだけでは、侵害行為は、小規模なものでした。そのため、相手方に侵害内容の詳細を開示するように要求することとしました。
もっとも、侵害内容の詳細を報告すれば、次に相談者が損害賠償請求をしてくることは、当然に相手方も予想できます。また、侵害内容の開示をもとめていることから、相談者が侵害内容を全て把握しているわけではないことも相手方には想定できます。
そこで、相手方の著作権侵害行為の内容の開示を求める際に、相談者が不正利用の情報を把握していることは通知しましたが、その具体的内容は通知しませんでした。相手方の侵害行為の報告に、相談者が把握している無断利用された記事が含まれていない場合、相手の報告が正しくないことがわかります。また、通知には、虚偽の報告がされた場合は、相談者として、厳しい手段をとることを示唆し、正確な報告をするように促しました。
実際に、相手方から得られた侵害の報告を精査したところ、200本以上の記事が無断利用されており、相談者が把握していた記事もすべて含まれていました。また、相談者が把握していなかった多数の侵害行為も報告されており、狙い通り、正確な侵害内容が報告されました。
▶参考情報:著作権侵害については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください
相手方の報告により、無断利用の詳細が判明しました。そのため、それを基に著作権侵害に基づく損害賠償請求額を計算することにしました。
著作権侵害において損害は「譲渡等数量のうち販売等相応数量を超えない部分に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を損害額と推定する」と規定されています(著作権法114条1項1号)。そのため、相手方が無断使用でなく、きちんと相談者との記事の利用契約を締結していれば、相談者が得られた利益を損害額として請求することとしました。
▶参考情報:著作権法114条1項1号
第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(以下この項において「侵害者」という。)に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、侵害者がその侵害の行為によつて作成された物(第一号において「侵害作成物」という。)を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。同号において「侵害組成公衆送信」という。)を行つたときは、次の各号に掲げる額の合計額を、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。
一 譲渡等数量(侵害者が譲渡した侵害作成物及び侵害者が行つた侵害組成公衆送信を公衆が受信して作成した著作物又は実演等の複製物(以下この号において「侵害受信複製物」という。)の数量をいう。次号において同じ。)のうち販売等相応数量(当該著作権者等が当該侵害作成物又は当該侵害受信複製物を販売するとした場合にその販売のために必要な行為を行う能力に応じた数量をいう。同号において同じ。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額
・参照元:「著作権法」の条文
相談者が、記事の利用契約を顧客と締結する場合、その利用人数により記事1本あたりの金額を定めます。ただし、相談者は、通常契約締結時の交渉により、顧客の利用量や取引状況を考慮して1記事当たりの利用料を減額していました。
しかし、今回は、相談者としては、無断利用は報われないと思わせるために、できるだけ多くの損害賠償請求を行いたいというご希望がありました。そこで、相手方が、無断使用であったことから、通常の契約交渉で行われるような減額は一切しないものとして損害額を計算しました。
弁護士からそのように計算した賠償額を請求した結果、相手方から実際に賠償金を得ることができました。
▶参考情報:著作権侵害の損害賠償額については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
相手方が保持している記事は著作権を侵害して複製したものです。そのため、著作権に基づき、複製した記事を削除することを求めました(著作権法112条1項)。
▶参考情報:著作権法112条1項
第百十二条 著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
・参照元:「著作権法」の条文
相手方に削除することの異議はありませんでしたが、既に削除していたということで、実際に破棄した証拠を確認するのは困難でした。
そこで、相手方に全て削除したことを表明させ、今後は二度とこのような無断利用をしないことを書面で約束させました。また、相談者が、侵害に対しては毅然と対処したことを表明する事例として、本事件の顛末の概要を相談者のメディアで公表することを認めさせました。
本件では、相手方に侵害の全容を報告させて再発防止を約束させました。また侵害行為に対する相当な賠償金も支払わせることができました。
知的財産権の適切な保護は、メディア事業の健全な発展にとって不可欠です。記事を無断で複製し利用する行為は、著作権法に明確に違反する行為です。侵害に対し毅然とした対応をすることにより、結果として、自社の権利を守り、事業を発展させることにつながります。
咲くやこの花法律事務所は、著作権をはじめとする知的財産権に関するご相談をお受けしています。もし貴社が、記事やコンテンツの無断利用、その他の知的財産権侵害でお困りでしたら、ぜひ一度ご相談ください。貴社の貴重なコンテンツを守り、安心して事業に専念できるよう、全力でサポートいたします。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の著作権侵害に関する弁護士への相談サービスは以下をご覧ください。
なお、今回の事案のような著作権侵害については以下の記事でも詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
・著作権について弁護士に相談して解決する必要性と弁護士費用の目安
咲くやこの花法律事務所の著作権侵害に関する弁護士への相談サービスへの問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
今回の解決事例は、「有料記事の無断転載被害について弁護士が対応して損害賠償の支払いと再発防止を約束させた事例」についてご紹介しました。他にも、今回の事例に関連した著作権侵害トラブルの解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。
・退職者による会社撮影写真の無断利用について削除請求をした事例
・他社から著作権侵害の主張を受けたが、弁護士が文書で反論し、損害賠償請求を断念させた事例