自社が使用する商標が不正に他社に登録され、商標登録異議の申立てにより登録取消しに成功した事例
商標権の解決実績

自社が使用する商標が不正に他社に登録され、商標登録異議の申立てにより登録取消しに成功した事例

自社が使用する商標が不正に他社に登録され、商標登録異議の申立てにより登録取消しに成功した事例

この成功事例を紹介する弁護士

  • 弁護士  片山 琢也
  • 咲くやこの花法律事務所  弁護士  片山 琢也

    出身地:大阪府。出身大学:京都大学法学部。主な取扱い分野は、「労働関連(組合との団体交渉、就業規則や契約書作成・チェック、残業代請求・解雇トラブルへの対応、従業員のメンタルヘルスから職場復帰へのアドバイス、従業員間のトラブルへの対応等)、債権回収、システム開発トラブル、建築業の顧客トラブル対応、インターネット上の悪質記事の削除請求など」です。

1,業種

 

自動車部品の製造販売業」の事例です。

 

2,事件の概要

 

本件の依頼者は、自動車部品の製造販売を行っている海外メーカーから、ブランドロゴの利用許諾を含め総合代理店としての契約をして、日本で同社製品の輸入販売を行っていた法人です。

この海外メーカーの製品に目をつけた者によって、海外メーカーのブランドロゴとそっくりのロゴを日本にて無断で商標登録されてしまいました。

それだけでなく、無断登録した者は、依頼者に対し、依頼者による商標の使用は、商標権侵害であると通知してきました。

この理不尽な状況を何とかする方法がないかと、弁護士に相談がされました。

※商標権侵害については、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。

 

 

3,問題の解決結果

 

相手方によって無断で登録されてしまった商標に対して、登録取り消しを求める異議申立手続を行ったところ、無事に登録取消を勝ち取りました。

今後、依頼者が改めて商標を出願して商標の取得をする予定です。

 

4,問題の解決における争点

 

以下では、本件に関する問題解決における争点について解説いたします。

 

(1)手続の選択

 

他人によって登録された商標を無効としたい場合、通常は商標登録の無効審判手続を行います。

この手続きは、手続きを実施するまでの時間的制限がないため、商標の無効を求める際の原則的な手続きと言えます。

ただ、請求した者と請求された者の双方が互いに主張をしあう裁判に似た手続きのため、結果がでるまで時間がかかります。2019年の平均審理期間は13.1カ月と平均で1年以上かかっています。

これに対し、無効としたい商標が登録から2カ月たっていない場合は(正確には公報発行日から2カ月以内)、異議申立という別の手続きをとることができます。

無効審判手続と違って、異議申立は誰でも申立をすることができ、手続きも比較的簡易で、早期に結論が出ることを期待できます。2019年の平均審理期間は8.9カ月と無効審判手続と比べて短くなっています(本件でも約8カ月で結果でました)。

そのため、異議申立手続の方が総合的に負担が軽く、可能であればこの手続きを選択した方がよいといえます。

依頼者から相談を受けた時点では登録されてから1カ月程度しか経過していなかったため、弁護士から説明し、期限内に異議申立手続をとることを方針としました。

なお、無効審判手続と異議申立手続については以下のWebサイトをご参照ください。

 

 

(2)取消しが認められる要件

 

登録された商標の取消しが認められる要件はいろいろとありますが、他人の有名な名称やロゴなどを横取りしようとする事案では、商標法4条1項19号が問題となります。

具体的な規定内容は下記のとおりです。

 

▶参考:商標法4条1項19号

 

他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの

 

ざっくり言えば、「①日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標かどうか」、「②不正の目的があるといえるか」の2点が要件となります。

これらがどちらも認められると、不正に登録された商標として取消しが認められます。

弁護士が事情を聞き取り、これら要件が認められる可能性があると判断し、異議申立てを行うこととしました。

 

(3)証拠資料の準備

 

異議申立手続で最も大変なことが、証拠資料を用意することです。

上述のとおり異議申立手続をするには、時間制限があり十分な時間があるとは言えません。一方で、上記の2つの要件を認めてもらうことは決して簡単ではなく、十分な証拠を用意しなければなりません。

しかも、「国内外で有名であること」や「不正の目的があること」などを示す証拠としては、決まったものがあるわけではなく、その事案ごとに様々な資料が考えられます。

後で詳しく述べますが、弁護士と依頼者の間で話し合いをして、必要な証拠を集めました。

 

5,担当弁護士の見解

 

上記のような争点を踏まえて、本事案の担当弁護士の見解を解説していきます。

 

(1)取消しが認められる見通しについての検討

 

取消しが認められるかどうかは、諸事情を考慮しての総合判断となりますが、上述した要件「①日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標かどうか」、「②不正の目的があるといえるか」が認められるかがやはり重要です。

その点について詳しく説明します。

 

1,要件「①日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標かどうか」について

 

要件①は「日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標かどうか」です。

今回の事案は、海外メーカーのブランドロゴと同じものが日本で不正に登録されていた事案ですので、当地である海外で有名であることを示すことが必要になりました。

「需要者の間に広く認識されているかどうか」は、いろいろな事情を総合して判断されます。

具体的には、そのブランドロゴが付された商品の売上高、販売数量、宣伝広告の状況、使用されている年数等の事情を見て判断されます。

ある国で広く認識されていると特許庁に認められることは簡単なことではありません。

商品の売上高を例に挙げると、年間10億円程度の売上では、それのみで1つの国で広く認識されているとまでは言えないと思われます。ゆえに、この要件を満たすにはある程度の売上規模が必要であり、そのハードルは高いと考えられます。

本件の対象である海外メーカーの売上規模は年間数千万円程度でした。そのため、売上高だけをみると、取消しが認められることはかなり厳しいと思われました。

しかし、弁護士が過去の事例などを調査したところ、次に検討する「不正の目的」の要件が明確な事案であれば、売上規模が小さい等、知名度が低いと思われる事案でも、取消しが認められている傾向があることがわかりました。

本件では、後述するとおり相手が不正の目的を持っていることが明確であったため、弁護士が「取消しが認められる可能性がある」と判断し、手続きを進めることとしました。

ただ、そうは言っても、知名度が全くない場合にまで取り消しが認められるわけではありません。できる限り知名度があることを示す証拠を出すことは重要です。

 

2,要件「②不正の目的があるといえるか」について

 

要件②は「不正の目的」があるかどうかです。

不正の目的がある場合とは、日本での商標登録を盾にして、海外メーカーの日本での事業を妨害することや登録商標を高額で買い取らせることを目的に商標登録しているような場合です。

相手方の商標権者は、この海外メーカーのブランドロゴがついた商品を自ら輸入販売しており、自身が登録した商標が海外メーカーのブランドロゴと同一であることは認識していました。

にもかかわらず、正規代理店である依頼者に対して、商標権侵害を主張して、ブランドロゴの使用差止を要求してきていました。

この点から、本件では相手に不正の目的があることは明らかであると思われました。不正目的が明確でなければ、この事案はかなり見通しが暗かったと思われます。

 

(2)証拠の収集

 

誰もが知っているくらい著名なロゴや名称であったり、一般的には知られていなくても、かなりの売上規模があり業界シェアも高い等の事情があれば比較的簡単ですが、通常は「有名である」ことを証拠で示すことは簡単なことではありません。

そのため、できるだけたくさん資料を提出して特許庁の審判官を説得することが重要となります。

本件では合計で32件の証拠を提出しました。不正目的を示す資料も含まれますが、多くは有名であることを示すための資料です。

弁護士から依頼者にいろいろと質問を投げかけ、少しでも使えそうな資料はすべて用意いただきました。本件で提出した資料は概ね以下のようなものです。

 

  • ・海外での商標登録証
  • ・海外での商標申請時の資料
  • ・海外メーカーのホームページを印刷したもの
  • ・海外メーカーの決算資料(売上高を示すものとして。3年分を提出)
  • ・海外メーカーが業界の大規模イベントに出展していたことを示す資料(イベント時の写真)
  • ・上記イベント自体の知名度や規模を示す資料(過去の開催回数、出展社数等)
  • ・海外メーカーが日本以外の外国にも商品を輸出していたことを示す資料
  • ・海外メーカー商品の日本での販売状況、売上高を示す資料
  • ・海外メーカーがミュージシャンのミュージックビデオに商品を提供していたことを示す資料
  • ・日本で商標登録される4年以上前から本国では使用されていたことを示す資料

 

日本での知名度を示す場合は、判断をする審判官も日本人であるため場合によっては商品や企業名を知ってくれている可能性があります。

しかし、今回は海外の一般的には知られていないメーカーであったため、そのような可能性も期待ができず、些細なものもすべて提出しました。

また、売上高については単純に金額だけをみるとそれほど大きな金額にはならないため、3年分の決算資料を提出し、年々売上高が伸びていることを示して知名度が大きく伸びていることを証明しようとしました。

さらに、上記の海外イベントに関しては、そのイベントの日本側窓口になっている貿易センターに連絡して、関連資料を提供してもらうなどもしました。

さらに、不正の目的を示す資料としては、相手方自身が当該海外メーカーの商品を輸入販売していることを示す資料(海外メーカーの存在や、その名称、ブランドロゴを知った上で、日本で商標登録をしていることを示す資料)、当該海外メーカーの日本での正規代理店である依頼者に対して、相手方から送られてきた商標権侵害の警告通知などを提出しました。

 

6,解決結果におけるまとめ

 

本件では、異議申立ての結果、相手が不正に登録した商標が取り消され、依頼者に喜んでいただくことができました。

自社の使用してきた名称やロゴを、不正に登録されてしまった場合はすぐに弁護士にご相談ください。登録から間もない時期であれば、より簡易に、より短い期間で取り消しが実現できる可能性があります。

また、取消しが認められる要件があいまいで、どのような資料があれば認めてもらえるのかはとてもわかりにくいです。商標権トラブルに精通した弁護士による判断が必須です。

今回は、無事に登録を取り消すことができましたが、常に取り消しができるわけではありません。取り消しが難しい場合、他人の商標として登録されているため、商標権侵害として責任を追及されてしまう危険性があります。よって、できるだけ早く取り消しが可能かどうかを判断することも大切です。

早期に弁護士に相談することで、取消しをスムーズに進めることや、責任追及される危険性を減らすことができます。

同様の事案でお困りの場合は、できる限り早期に咲くやこの花法律事務所にご相談ください。

商標権侵害で警告を受けたり、損害賠償請求された時の反論方法については以下で解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

また、商標権トラブルに強い弁護士への相談は以下のページも参考にご覧ください。

 

 

7,咲くやこの花法律事務所の商標権侵害トラブルに強い弁護士へのお問い合わせ方法

数々の実績と豊富な知識のある弁護士がサポート!「trademarkに強い弁護士」によるサポート内容について詳しくはこちら

 

咲くやこの花法律事務所の商標権侵害トラブルに強い弁護士への今すぐのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

8,【関連情報】この事例に関連した解決実績&お役立ち情報

今回は、「自社が使用する商標が不正に他社に登録され、商標登録異議の申立てにより登録取消しに成功した事例」について、ご紹介しました。

他にも、今回の商標権トラブルに関連した解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。

 

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靴のECショップが大手メーカーから商標権に基づく販売差止めを請求されたが、商標権を侵害しないことを説明して、販売を継続できた事例

【特許庁から拒絶理由通知された商標出願トラブル】弁護士が特許庁に意見書を提出することで商標登録に成功した事例

 

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