今回の解決事例で書かれている内容(目次)
「不動産業」の事例です。
本件は、物件オーナー(賃貸人)からの依頼を受け、賃貸店舗にテナントとして入っていたアパレルショップ(賃借人)との立ち退き交渉を行った事案です。
その事案の詳細は以下の通りでした。
(1)本件の賃貸店舗は大阪市内の御堂筋線の駅から徒歩2分程度の繁華街の一等地に所在しており、相談者はこの物件の所有者でした。
(2)この物件はすでに築年数70年近くになっていると推測され、相当程度老朽化していました。ただし、物件は隣接建物と壁を共有して建てられた長屋であり、建て替えのためには隣接建物の所有者と同時に建物を取り壊す必要がありました。
(3)隣接建物の所有者は建て替えに積極的で、以前から、相談者に建物の取り壊しと建て替えの計画を持ち掛けていました。
このような経緯の中で、相談者は、隣接建物の所有者との間で、8月中にテナントを退去させたうえで、9月から建物の取り壊しを始めるという約束をしました。
(4)テナントとして入っていたアパレルショップ(賃借人)も当初は立ち退きに応じる意向を示していましたが、その後、相談者との間でトラブルが生じ、賃借人は6月になって、弁護士をつけて、立ち退きには応じない旨の通知をしてきました。
(5)相談者としては、8月中に退去を実現しなければ、取り壊しが遅れることになり、共同して取り壊しを予定していた隣接建物の所有者にも大きな損害を発生させてしまう状況でした。
そのため、立ち退きの交渉についてご相談いただき、ご依頼いただいた事例です。
交渉の過程で、賃借人側からは約1300万円の立退料の要求がありました。
また、当方としては、仮に賃借人に対して、立ち退きを求めて訴訟を起こした場合、訴訟で結論を得るには1年以上の期間がかかるため、隣接建物の所有者との間で約束した9月の取り壊しには到底間に合わなくなることが明らかな状態でした。
そのため、訴訟という手段もない中での厳しい交渉になりましたが、およそ2か月間の交渉の結果、立退料を600万円にまで減額したうえで9月初旬の退去を実現することができました。
本件の解決にあたっては以下の点が課題となりました。
法律上、普通賃貸借契約の賃貸人が賃借人との賃貸借契約を終了させ、立ち退きを求めるためには、以下のいずれかにあたることが必要です。
今回のケースは、家賃滞納などの賃借人側の契約違反はありませんでした。
一方、建物の老朽化は進んでおり、賃貸借契約の更新のタイミングで、家主側から立退料を提示したうえで立ち退きを求めれば、更新しないことに「正当な理由」があるとして賃貸借契約の更新を拒否することは十分認められる余地がある事案でした。
しかし、賃貸借契約書を確認すると更新の時期はずいぶん先でした。更新のタイミングが来るまでの賃貸借契約の期間中は、建物の老朽化が進んでいたとしても、また、賃貸人から立退料の提示をしたとしても、賃借人には原則として、立ち退く義務はありません。
そのため、賃借人に対して、法的に強制的に立ち退きを求める根拠がなく、話し合いにより立ち退きを実現させなければならない状況でした。
本件のような、賃借人側に家賃滞納などの事情がない場面での立ち退きは、立ち退きを求める約2年前から賃借人との話し合いを始め、話し合いがうまくいかない場合は、弁護士に立ち退き交渉を依頼することにより、期間の余裕をもって立ち退き交渉を進めることが通常です。
しかし、本件では、ご相談いただいた時点で、すでに、隣接建物所有者との間で約束した取り壊しの開始時期まで2ヶ月余りに迫っており、その期間内で、立ち退きを拒否している賃借人を説得して立ち退きを実現しなければならない状況でした。
7月から交渉を開始しました。当初は、賃借人は立ち退き自体を拒否していましたが、交渉の末、一応、立ち退きに向けた話ができるようになりました。
しかし、立ち退きの際に賃貸人から支払う立退料が問題になりました。
賃借人側からは、弁護士を通じて、約1300万円の立退料の請求がありました。この約1300万円はおおむね以下の合計金額として請求されたものでした。
このような請求は一見法外にも見えますが、過去の裁判例の水準からみると、決して不当な金額とはいえないものでした。
裁判例では、これらの費目のほかにも、店舗の移転を顧客に案内するためのダイレクトメールの費用や、店舗の移転により顧客を失うことによる営業補償が、立退料の内容として認められているものが多くなっています。
また、過去の裁判例では、店舗の立ち退きについては立退料が特に高額化する傾向にあり、賃借人側に家賃滞納などの契約違反がない場合、賃料10万円前後の小規模の店舗で、老朽化した店舗建物からの立ち退きであっても、賃貸人側が1000万円~1500万円程度の立退料の支払いを命じられるケースが多くなっています。
本件では、賃料30万円の繁華街の一等地の店舗であり、裁判所で立退料が算定されれば、立退料が3000万円を超える可能性すらある事案でした。
そのため、賃借人が請求した1300万円という立退料の金額は不当とはいいがたい面がありました。
しかし、依頼者(賃貸人)としては、請求されたような約1300万円もの金銭を用意できる目途が立たず、立退料の減額交渉が必要でした。
ここからは、担当弁護士の見解についてご説明していきます。
本件では、当初、賃借人が立ち退き自体を拒否していましたので、まずは、立ち退きに向けて賃借人を説得しなければならない状況でした。
賃貸人側の弁護士として、賃借人側の弁護士に対して、仮に今回立ち退かなくても、すでに建物が老朽化している以上、いずれは建て替えのための立ち退きに応じなければならないことが確実であることを説明して説得にあたりました。
あわせて、賃借人に対して、近隣の空き店舗の情報を提供することで、移転についての具体的なイメージを持ってもらい、また、賃料についても移転により大きく上がるわけではないということを理解してもらうように交渉しました。
立退料の金額の交渉については、前述の通り、必ずしも、賃借人側の請求額が不当に高いとも言えない状況であり、難しい交渉になりましたが、以下の点を指摘して交渉しました。
賃貸人(相談者)は、過去、賃借人からの家賃値下げの要望を受けて、家賃の値下げに応じてきた経緯がありました。
ご相談時、家賃は月30万円でしたが、当初は月40万円の設定であり、それが賃借人側からの値下げ要望を受けてだんだんと値下げされて、月30万円になった経緯がありました。
弁護士が、過去の合計の値下げ額を計算すると合計約1500万円にもなりました。
このように、家賃の減額に応じてきた経緯は、必ずしも法的に立退料の金額を下げる根拠になるわけではありません。
しかし、弁護士としては相談者の立場から、過去に家賃の値下げ要望を受け入れ、合計約1500万円もの値下げに応じたのに退去時に高額の立退料の支払いを求めることはおかしい旨主張して、立退料の減額交渉を行いました。
前述の通り、過去の裁判例によると、店舗の立ち退きについては立退料が特に高額化する傾向にあり、賃借人側に家賃滞納などの契約違反がない場合、賃料10万円前後の小規模の店舗で、老朽化した店舗建物からの立ち退きであっても、賃貸人側が1000万円~1500万円程度の立退料の支払いを命じられるケースが多くなっています。
ただ、その理由は、飲食店や小売店などの来店型の店舗では、店舗の場所が変更になることにより、新しい店舗の場所を知らない顧客が来店しなくなったり、あるいは店舗が遠くなってしまった顧客が来店しなくなることで、移転により顧客を失うリスクがあるということが主なものです。
ところが、本件の事案でのアパレルショップでは、来店による販売は3割程度で、残りの7割程度は通信販売でした。
そして、通信販売の顧客については、店舗がどこになろうとあまり関係がなく、移転により顧客を失うリスクもないと考えられました。
そこで、このように、本件では移転による営業上の支障が少ないということも主張して、立退料の減額交渉を行いました。
本件のような立ち退き交渉では、相手方の弁護士に立ち退きが必要な事情をよく説明して理解していただき、弁護士から相手方を説得してもらうことも重要になります。
本件についても、賃借人側の弁護士の先生に立ち退きが必要な事情をよく説明したことで、賃借人を説得していただくことができ、最終的に立退料600万円で9月初旬の立ち退きを合意することができました。
本件では、前述の通り、最終的に9月初旬に、双方の弁護士が立ち合いのうえ、店舗の立ち退きを完了させて、店舗の鍵の返却を受けることができました。
その後、近隣の銀行の支店まで出向いて、立退料の支払いの決済を双方の弁護士が立ち合いの上行いました。
賃貸人と賃借人は、立ち退きをめぐってトラブルがありましたが、当初は長年円満に賃貸借関係を継続してきた間柄であり、最終的に円満な合意による解決ができ、賃貸人からは大変よろこんでいただけました。
立ち退きが9月初旬になってしまい、隣接建物の所有者に約束した期限からは少し遅れましたが、わずか数日の遅れであったため、大きな支障が生じることなく、その後の取り壊しをすすめることができました。
賃借人との立ち退き交渉については、なによりもまず早めに弁護士にご相談いただくことが重要です。立ち退きを実現させたい時期の2年くらい前を目安に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
立ち退き交渉のについては、以下の記事などで詳細に解説していますので、併せてご参照ください。
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今回は、「貸店舗所有者からテナントの立ち退き交渉について依頼を受け、賃借人請求額約1300万円に対し、半額以下で解決できた事例」について、ご紹介しました。他にも、今回の事例に関連した不動産関係の解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。
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