今回の解決事例で書かれている内容(目次)
「ソフトウェア開発会社」の事例です。
本件は、スマートフォンの位置情報を利用した勤怠管理ソフトウェアを開発した企業が、そのソフトウェアの利用規約の作成を依頼したいということで、咲くやこの花法律事務所にご相談がありました。
ソフトウェア利用規約に、利用者とのトラブルを想定して盛り込むべき事項を盛り込み、かつサービスの特殊性を反映したオリジナルの利用規約を仕上げることができました。
以下では、本件に関する問題解決のポイントについて解説いたします。
利用規約は、「利用者とのトラブルを予防する」、「利用者とのトラブル発生時にも会社を守ることができるようにする」という予防法務の観点から、作成することが必要です。
今回のソフトウェアの利用許諾において、利用者とのトラブルとして想定されるのは、以下の3点がありました。
利用者の中には、法律や規約に違反する利用者もいます。違反の内容や程度によっては、ソフトウェア提供者(相談者)の側から、契約関係を終了させる(解除する)ことも必要になります。
このように契約を解除する場合に、「利用者とのトラブルを予防する」という観点より、出来る限り利用者にも解除に対する納得感を持ってもらうために、どのように規定を設けるかがポイントでした。
ソフトウェアに関する不具合が発生した場合に、利用者より損害賠償を求められることがあります。
法律上、損害賠償はソフトウェアの不具合と因果関係のある損害が対象となりますが、利用者のソフトウェアの利用の仕方によって因果関係の範囲が拡大し、想定を超える損害が出て、それがソフトウェア提供者(相談者)に請求されるということも考えられます。
そこで、「利用者とのトラブル発生時にも会社を守ることができるようにする」という観点から、利用者からの損害賠償請求を制限するため、どのように規定を設けるかがポイントになりました。
本件のようなソフトウェアの利用許諾の場合、一般的には、ライセンス期間が設定され、その期間に対応するライセンス料が決められています。
ただし、今回のソフトウェアについては、利用者がソフトウェアを使用していない期間については、利用者にライセンス料の支払義務を発生させないという事業モデルでした。
このようなサービス内容の特殊性について、どのように規定を設けるかがポイントでした。
ここからは、担当弁護士の見解についてご説明していきます。
ソフトウェアの利用許諾に関する規約は、サービスの内容に応じてさまざまな条項を盛り込むことが必要です。
ただし、どのようなサービスでも共通して通常盛り込むことが必要な事項としては、おおむね以下の事項をあげることができます。
法律や規約に違反する利用者との契約を解除する場面では、契約を解除される利用者にも納得感を持ってもらう工夫をすることがトラブル予防につながります。
そして、できるだけ納得感を持ってもらうためには、事前にどのような場合に解除になるかを利用規約に明示し、利用者に対して、「今回のような問題を起こした場合に解除になることは規約に書かれている」ということを説明できるように準備しておくことが重要です。
利用者も、許諾を受けるに際して規約に同意しているため、規約に書いてある内容については、基本的に反論の余地がありません。
そのため、会社側から契約解除にあたり、「規約のここに書いてあります」と示すことが出来るかどうかが重要です。
以上を踏まえた規定の定め方ですが、まず、どういった場合に解除が出来るかという規定を設けます。
具体的には、第10条(解除)として、以下の条項を設けました(※甲=許諾者、乙=利用者、以下同じです。)。
「甲は、乙に次の各号に定める事由が生じたときは、何らの催告又はその他の手続を要することなく、直ちに本契約の全部又は一部を解除し、乙による本ソフトウェア使用を差し止め、かつ、残りの契約期間中の使用料の合計に相当する額の損害賠償を請求することができる。
(1)本契約又は法令に違反し、その程度が重大であるとき
(2)支払の停止があったとき、又は差押え、仮差押え、仮処分、公売処分、租税滞納処分若しくはその他公権力の処分を受け、民事再生手続、会社更生手続、若しくは破産手続の開始を申し立てられ若しくは自ら申し立て、特定調停を自ら申し立て、又は競売を申し立てられたとき
(3)甲に対して重大な危害又は損害を及ぼすとき
(4)監督官庁より営業停止又は営業免許若しくは営業登録の取消等の処分を受けたとき
(5)本契約に係る営業の全部若しくは一部の譲渡、廃止若しくは変更をし、又は合併若しくは解散の決議をするとき
(6)株式譲渡、又は株主構成若しくは役員の変動等により会社の実質的支配関係が変化し、従前の会社との同一性が失われたとき
(7)その他、乙の財産状態が悪化し、又はそのおそれがあるとき
(8)その他、乙の責めに帰すべき事情により、本契約を継続できない場合」
そして、次に、解除事由として挙げられている「(1)本契約又は法令に違反し、その程度が重大であるとき」の内容を利用者に明示し、説明しやすくするために、利用規約に「禁止行為」の条項を設ける必要があります。
この「禁止行為」に該当する行為を行い、その程度が重大であるときは、「(1)本契約又は法令に違反し、その程度が重大であるとき」として、解除の理由になることになります。
そのうえで、禁止行為については、利用規約の別の条文で、例えば、以下のように規定することが考えられます。
「乙は、本契約に定めるもののほか、以下の各号に定める行為を行ってはならない。
(1)本ソフトウェアの複製、修正、改変、加工、翻訳その他の加工、本ソフトウェアに対するリバースエンジニアリング、逆コンパイル、逆アセンブルその他の解析、又は派生的ソフトウェアの作成
(2)説明文書の複製、修正、改変、加工又は翻訳
(3)ライセンスキーの改変
(4)テロ、サイバー攻撃、詐欺、その他不正の目的による本ソフトウェアの全部又は一部の使用
(5)乙及び乙関係者に対する暴力行為、威嚇行為又は迷惑行為
(6)本契約、法令、公序良俗もしくは社会通念に反する行為
(7)乙又は第三者に対して損害又は不利益を与えるおそれのある行為
(8)その他不適切な行為」
このように禁止行為の内容と解除事由を利用規約に定めることで、契約を解除する際の利用者とのトラブルを予防することができます。
利用者からの損害賠償請求に備えて、損害賠償の上限規定を利用規約に設けておくことも重要です。
例えば、以下のような条項が考えられます。
「本サービスの利用に関し、甲が乙に対して損害賠償責任を負う場合において、甲の乙に対する損害賠償額は、損害が発生した日からさかのぼって6ヶ月間に本契約に基づき乙が甲に支払った利用料金相当額を上限とする。」
単に契約に基づいて支払われた利用料金の額を損害賠償の上限とすると、利用期間が長い利用者については上限額が大きくなってしまいます。
そのため、本件のような継続的な利用が見込まれる利用規約では、上記のように6ヶ月などの期間を区切ってその期間に支払われた利用料金の額を上限額として設定するなどの工夫をすることも検討の余地があります。
本件では、ソフトウェアを使用していない期間について、利用者のライセンス料の支払義務が発生しないという点を利用規約に反映することも必要でした。
これについては、第4条(ライセンス料)として、以下の条項を設定しました(下線部分参照)。
「甲は、乙に対し、本ライセンスのライセンス料として、甲におけるユーザー1名につき月額●円(税別、月の途中でも日割り計算は行わない。)を支払う。ただし、ライセンス料の1算定期間(毎月1日から末日までの期間)において、本サービスを1度も使用していないユーザーについては、当該算定期間に対応するライセンス料は発生しない。」
以上の通り、利用規約は、利用者とのトラブルを想定し、また、個別の特殊性も踏まえて、作成することが必要です。
例えば、利用者との損害賠償トラブルの場面でも、利用規約に上限規定を設けていれば、その範囲内でのみ損害を賠償すれば良かったにもかかわらず、上限規定を設けていなかったために、因果関係のある全損害を賠償することが必要になることがあります。
このように上限規定という条項の有無で、結論に大きな違いが出てきます。
利用規約の作成に詳しい弁護士に相談することで、利用者とのトラブルを想定した規約、個別の特殊性を踏まえた規約を作成することが可能になります。
利用規約の内容に関して疑問点をお持ちの方や、利用規約の作成について不安のある方については、ぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
利用規約の作成方法については以下の記事も併せてご参照ください。
咲くやこの花法律事務所の「契約書に強い弁護士への相談サービス」への今すぐのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
今回は、「勤怠管理ソフトウェアの利用規約の制定をサポートした事例」について、ご紹介しました。
他にも、各種契約書や利用規約など、今回の事例に関連した解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。
・業界新聞より依頼を受け、インターネット上で新聞記事を閲覧できるサービスの利用規約を作成した事例
・人材派遣会社の依頼により、求人サイトの利用規約を作成した事例
・ECサイト運営会社の依頼を受けて、食料品の継続的売買契約についてリーガルチェックを行った事例