今回の解決事例で書かれている内容(目次)
「フィルム施工業」の事例です。
本件は、相談者が新たに業務委託する職人との間の契約について、「準委任契約」の形態での業務委託契約としたいとのご要望があり、咲くやこの花法律事務所にご相談に来られた事例です。
弁護士が、相談者が作成した業務委託基本契約書の内容を確認し、「準委任と雇用や請負との違い」や、「下請法等の適用法令」の観点から検討し、リーガルチェックを行いました。
業務委託基本契約書は、どのような業務をどのような形で委託するかを明確にしたうえで、契約形態や適用される法律に注意しながら作成する必要があります。
本件でご相談いただいた業務委託基本契約書において、ポイントになった点は以下の3点です。
契約書の表題を「業務委託基本契約書」としていても、職人とトラブルが生じたときに、裁判所での判断において、雇用契約であると判断されるリスクがあります。
裁判所では、契約書の表題にかかわらず、職人が発注者の指揮命令を受けていたと判断すれば、雇用契約であると判断する傾向にあるからです。
そのため、例えば、業務委託契約を発注者側から解約しようとする場面で、職人側から、これは雇用契約であり、解約は不当解雇であるという主張がされる危険があります。
また、雇用契約であるということになると、職人から未払い残業代が請求される可能性もあります。
今回、このような問題が生じないよう、雇用契約ではなく準委任契約であることを明確にしたいというのが、相談者の希望でした。
そのため、契約書上いかに雇用契約でない点を明らかにするかがポイントになりました。
自社で行うべき業務を他者に外注する際には、請負契約にするか、準委任契約にするかという点も大きなポイントの1つです。
どちらの契約も、自社で行うべき業務を他社に外注する契約ですが、どちらの契約とするかで、発注する側の権利の内容や受注する職人の義務の内容に大きな違いが出てきます。
また、どちらの契約にするかによって適用される法律が変わることがあります。
今回、相談者は、外注先に、フィルム施工の「作業」を外注するための準委任契約にしたいとのことでしたので、請負契約との区別を意識した契約にすることがポイントでした。
今回の相談者は資本金が1000万円を超えており、業務委託先は個人の職人を予定していましたので、下請法が適用される契約類型でした。
そのため、下請法を遵守した契約書を作成する点もポイントの1つでした。
ここからは、担当弁護士の見解についてご説明していきます。
自社で行うべき業務を他者に外注する業務委託契約には、法律上大きく分けると、以下の3つの類型があります。
契約書を作成する際は、このような3つの類型の違いを十分理解したうえで作成する必要があります。
各契約の違いは以下の通りです。
雇用契約は、業務委託先(職人)を自社の従業員と同様、指揮監督下においたうえで、労働をさせ、その対価として賃金を支払う契約のことです。
請負契約や委任契約との違いは、業務委託先(職人)を「指揮命令下」におくことができることです。
これにより、業務委託先(職人)に対して、その作業場所や作業時間、作業方法等を細かく命じることができます。
業務委託先(職人)は、発注者の合理的な指示には従う必要があり、これに反することはできません。
請負契約は、業務委託先に注文に沿って仕事を完成させ、「仕事の完成」という結果に対して、報酬を支払う契約のことです。
受注者側が建物の完成義務を負う工事請負契約書やWebサイト制作業務について完成義務を負うWebサイト制作請負契約書がその典型例です。
請負契約では、雇用契約と異なり、業務委託先(職人)を指揮監督下におくことはできません。
そのため、仕事の完成期限を定めることはできますが、業務委託先(職人)がどのような過程で仕事を完成させるかについて、発注者は原則として口を挟むことができません。
請負契約では発注者に業務命令権がありませんので、完成するべき仕事の内容を当初の契約から追加または変更する場合は新たに契約のまき直しが必要になります。
業務委託先(職人)としては、契約のまき直しに応じずに、これを断ることも可能です。
また、請負契約と準委任契約との違いは、業務委託先(職人)が仕事を「完成」させる義務を負い、成果物に不具合があった場合、業務委託先はその不具合に応じた修理や損害賠償等の責任を負うという点です。
これを契約不適合責任といいいます。
契約不適合責任については以下をご参照ください。
準委任契約は、業務委託先に一定の作業を依頼し、その作業の対価として報酬を支払う契約です。業務委託先(職人)を指揮監督下におくことはできない点は、請負契約と同じです。
請負契約と準委任契約との違いは、業務委託先が完成義務を負うかどうかという点です。
請負契約の場合、業務委託先(職人)は、仕事を完成する義務を負い、報酬をもらうためには、仕事を「完成」させなければならないことが原則です。
一方、準委任契約の場合、業務委託先が報酬をもらうためには、契約上要求される「作業」をすればよく、仕事の完成義務はありません。
ただし、準委任契約の場合も、業務委託先は通常の善良な作業者であれば尽くすべき注意義務を尽くして作業を行う必要があります。
そのため、業務委託先がこのような注意を尽くしていなかった場合は、発注者に対して損害賠償等の責任を負います。
なお、委任契約と準委任契約は、業務委託先に行わせる業務の内容により区別されます。
業務委託先に契約等の法的な行為をさせることを依頼する場合は委任契約、テレアポやコンサルティングなど実作業をすることを依頼する場合は準委任契約と区別されています。
以上ご説明したところをまとめると以下の通りになります。
業務委託先が提供すべき 報酬の対価 |
業務委託先への 指揮命令権 |
完成した成果物に 不具合があった場合の 修補や損害賠償の義務 |
|
雇用契約 | 指揮命令下での労働 | あり | なし |
請負契約 | 仕事の完成 | なし | あり |
準委任契約 | 実作業を行うこと | なし | なし |
今回は、相談者から準委任契約にしたいという希望がありましたが、相談者がこれらの3つの契約類型の違いを十分理解できていないケースもあります。
そのため、本件でも、念のため弁護士から各契約類型を採用するメリットやデメリットなどについて説明を行いました。
そのうえで、準委任契約が、相談者が実現したい委託内容、形式と合致していることが確認できましたので、準委任契約となるように契約書のリーガルチェックを進めていきました。
業務委託基本契約が雇用契約と認定されないようにするためには、上記の通り、業務委託先(職人)を指揮命令下におかないことが重要です。
どのような場合に、指揮命令下においたと判断されるかについては、これまでの判例等で主に以下の点を総合考慮して判断されています。
業務委託先に仕事の依頼に対する諾否の自由がある場合、つまり、業務委託先が、発注者からの作業依頼に対して、その依頼を断ることができる場合は、指揮命令下になく、雇用契約ではないと判断されやすくなります。
業務委託先がその作業方法について発注者の細かい指示を受けることなく、独自の判断と責任で決定して遂行することができるのであれば、指揮命令下になく、雇用契約ではないと判断されやすくなります。
業務委託先が、作業を行う時間や場所を自由に決めてよいのであれば、指揮命令下になく、雇用契約ではないと判断されやすくなります。
業務委託先が、更に再委託することができるのであれば、指揮命令下になく、雇用契約ではないと判断されやすくなります。
業務委託先に対する報酬体系が、発注者の従業員に対する賃金とは異なる報酬体系である場合や、時間給をもとにした報酬体系でない場合は、指揮命令下になく、雇用契約ではないと判断されやすくなります。
業務委託先が、業務遂行に必要な道具や車両などの費用を自ら負担していることは、雇用契約ではないと判断される要素の1つになります。
また、業務委託先への支払いにあたり給与所得としての源泉徴収をしていないことや、業務委託先である職人を発注者側の社会保険に加入させていないことも、雇用契約ではないと判断される要素の1つになります。
業務委託先である職人が他社からも仕事を受注することを認めている場合は、雇用契約ではないと判断される要素の1つになります。
業務委託先に、発注者の従業員に適用される就業規則上の服務規定を適用していないことは、雇用契約ではないと判断される要素の1つになります。
これらの観点から、弁護士が相談者の業務委託基本契約書の内容を確認しました。「1」の観点から仕事の依頼を断ることが可能であることや、「2」の観点から発注者からの指揮命令を行わないことについて、相談者作成の契約書には記載がありませんでしたので、これらの点を追記することにより、雇用契約ではないことを明確にしました。
また、「6」の観点から、道具や車両を職人がそろえることや発注者の社会保険に加入させないことも、雇用契約ではないことを明確にするために追記しました。
さらに、「7」の観点から、他社からの仕事の受注が自由であることも契約書に明記しました。
ただし、注意点として、契約書にこれらの点を明記しておけばそれで良いというものではなく、実際の現場で契約書どおりに業務委託先を指揮命令下におかない運用をする必要があります。
また、上記の「1」から「8」のすべての要素をそろえなければ雇用契約と判断されてしまうというわけではありません。
今回の相談者も、客先との関係で「3」の観点から時間や場所の拘束を外すことや、「4」の観点から職人による再委託を認めることは難しいとのことでした。
そのような場合は、その他の点を可能な限り契約書に明記し、運用上も遵守することで、思いがけず雇用契約と認定されるリスクは格段に小さくすることができることを伝えました。
準委任契約と請負契約の違いは、業務委託先が仕事の完成義務を負うか否かです。
準委任契約の場合、業務委託先は仕事の完成義務を負いません。そのため、契約書で業務委託先に行わせるべき作業内容を記載したうえで「仕事の完成」は業務内容に含まないことを明記することが重要です。
また、請負契約としない場合、業務委託先が仕事の完成義務を負わないことから、職人に対して、契約の拘束力を持って「納期までに○○の成果物を完成させてね」と依頼することができなくなる点にも注意する必要があります。
加えて、万が一、仕事の仕上がりに不具合があったとしても、それだけでは業務委託先(職人)に、責任を追及することができません。
準委任契約の場合は、業務委託先がどのような注意をして作業に従事すべきだったかを特定し、それに違反していたことを主張して責任追及をする必要が生じます。
そのため、請負契約と比べて、業務委託先(職人)への責任追及のハードルが高くなります。
弁護士が相談者に上記の点を伝え、業務委託先(職人)が仕事の完成義務を負わない点を契約書に明記しました。
職人に仕事の完成責任を負わせることができない点や仕事の仕上がりに不具合があった場合に職人に責任を負担させることが難しい点についても、相談者としては、作業に不備がある場合は他の作業員に修正させるので問題ないとのことでした。
今回の相談者は、このような認識であったため問題ありませんが、準委任契約とする場合は、業務委託先(職人)に仕事の完成義務を負わせることができない点には注意が必要です。
業務委託契約の種類についての説明の際、相談者から、成果報酬型の準委任契約とする必要があるかについても、ご質問をいただきました。
2020年4月の民法改正により、成果報酬型の委任契約、準委任契約についての条文が民法第648条の2に設けられています。
(成果等に対する報酬)
第六百四十八条の二 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。
2 第六百三十四条の規定は、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。
・参照:「民法」の条文はこちら
この成果報酬型の準委任契約は、業務委託先の作業により契約で定めた成果が得られた場合にはじめて、発注者に報酬支払い義務が発生する契約です。
成果報酬型の準委任契約と請負契約との違いは、通常の準委任契約と同様、やはり業務委託先が仕事完成義務を負うか否かです。
つまり、成果報酬型の委任契約では、業務委託先は成果が出た場合にだけ、報酬を請求できますが、仕事の完成義務までは負いません。
また、成果報酬型の準委任契約と通常の準委任契約との違いは、業務委託先は、作業に従事しても、成果がでなければ報酬が請求できないことです。
通常の準委任契約では、成果がでなくても必要な作業を行えば、報酬をもらうことができますので、この点が大きな違いです。
相談者からの質問に対して、弁護士からこれらの違いを説明しました。相談者としては、業務委託先(職人)には、作業をしてもらうこと自体に対して報酬を支払うことを検討しており、仮に仕事が完成しなくても他の作業員や自社の社員で対応して仕上げるとのことでしたので、成果報酬型の準委任契約の形態はとらないことになりました。
このように、民法改正により新設された準委任契約の類型も踏まえつつ、適切な契約形態について、弁護士からアドバイスを行いました。
2020年4月の民法改正については以下もご参照ください。
発注者側の資本金が1000万円を超えている場合は、下請法の適用の有無にも注意する必要があります。
今回の相談者が希望する準委任契約は、下請法が適用され、相談者は下請法を遵守しなければならない立場にある取引類型でした。
そのため、下請法を遵守した契約書にする必要あり、その観点からも、弁護士がアドバイスを行いました。
下請法が適用される場合、発注者は、発注内容を明記した書面を交付することが義務付けられており、その書面の記載事項は、以下の通り法律で決まっています(下請法第3条)。
また、相談者としては、上記の事項について書面の交付ではなく、電子メールによる通知で対応したいとの希望がありました。
下請法上、発注書を書面で交付することが原則とされていますが、発注先の事前の承諾がある場合は電子メールで通知することも認められています(下請法施行令第2条1項)。
その場合は、発注先に対して以下の点を明らかにしたうえで、電子メールでの通知で対応することについて事前に発注先の承諾を得ておくことが義務付けられています。
弁護士から、業務委託先との契約の締結に当たっては、これらの下請法に基づく注意点をアドバイスしました。
その他にも、下請法上、発注者は業務委託先による作業日から60日以内を業務委託料の支払期日とする義務があるなどの制限がありますが、これらの点は弁護士が確認したところ問題はありませんでした。
下請法については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
ちなみに、建設業法との関係ですが、相談者が行おうとするフィルム施工業務については、請負契約の形態で行う場合は、ガラス工事や内装仕上げに当たり、建設業法の適用があります。
この場合は下請法の適用がありません。
今回は、業務委託を準委任契約で行う場合ですので、建設業法は問題とならず、下請法の適用が問題になる点も、弁護士からアドバイスを行いました。
建設業法については以下をご参照ください。
本来、業務委託契約書を作成する場合、契約の形態から入るのではなく、自社で実現したい委託形態や内容を固め、それにあてはまるような契約書を作成することが必要です。
今回の相談者は、各業務委託の形態について詳しかったために、どのような契約形態にするかから検討を始め、その検討初期段階でご相談をいただくことができました。弁護士にご相談をいただく中で、相談者の業務委託の内容や業務委託形態も固まっていき、最終的にはご満足のいただける契約書のリーガルチェックをすることができました。
今回のご相談のように、通常、請負や雇用によってなされることが多い仕事や業務を準委任の形態で業務委託するためには、請負や雇用との違いを意識したリーガルチェックが必要です。またその他にも、建設業法や下請法等の法律の観点からも検討が必要です。
「業務委託契約」は、言葉として使いやすい分、実現したい業務委託の方法がどの契約にあてはまるのか、その契約にはどのような法律が適用され、その結果どのようなリスクがあるかについては軽視されがちです。
弁護士に業務委託契約書のリーガルチェックを依頼することで、これらのリスクを把握することができます。同時に、準委任の形態で業務を委託していたと認識していたにもかかわらず、相手方から雇用であるなどと主張されるリスクも回避することができます。
業務委託契約書については以下の記事もご参照ください。
また、契約書の作成については、以下でも解説していますのでご参照ください。
咲くやこの花法律事務所の「契約書に強い弁護士への相談サービス」への今すぐのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
今回は、「職人への業務委託を準委任の形態で行う際の契約書をサポートした事例」について、ご紹介しました。
他にも、今回の事例に関連した契約書関係の解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。
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