今回の解決事例で書かれている内容(目次)
本件は、顧問先の不動産管理会社の紹介により、この不動産管理会社の顧客である建物所有者から依頼を受けた事案です。
この建物所有者は、自身が所有する一軒家を賃貸していましたが、この借主を退去させたいと考えていました。借主は、玄関ドアにガムテープを何重にもわたって貼り付ける行為をしたり、貸している建物の周りに不要な椅子や廃棄物を放置したりするなど、建物所有者(依頼者)から見て問題のある使用方法をしていました。そのような使用方法により、周りの住人から依頼者に対して苦情が寄せられることもあり、依頼者はその対応に困り果てていました。また、依頼者は高齢で、今後はこの建物に親族に住んでもらい、依頼者の生活のサポートをしてほしいと考えていました。
しかし、家賃の滞納などの事情はなく、賃借人による使用方法も建物を損傷させるようなものではないため、一方的に賃貸借契約を解除して、強制的に明渡しを求めることができるほどの事情はありませんでした。
そこで、依頼者は、なんとかして借主に建物から退去してもらえないかと考え、不動産管理会社の紹介により、咲くやこの花法律事務所にご相談いただきました。
弁護士が、依頼者の代理人として借主と交渉を行った後、裁判を起こし、裁判において勝訴判決を得て、最終的に建物から退去してもらうことに成功しました。
具体的には、まず、弁護士が、借主を訪問して、借主と直接面談を行い、建物から退去してもらえないか交渉を行いました。
しかし、借主が退去に応じることがなかったため、建物明渡しを求める訴訟を起こしました。訴訟では、弁護士が、借主が契約に違反していることや、依頼者が建物を必要としていることを具体的に主張することで、勝訴判決を得ることができました。勝訴判決が出た後は、強制執行の手続きを行い、最終的に建物から退去してもらうことに成功しました。
本件のポイントは、以下の3点でした。
以下で詳しく解説します。
借主に建物から退去してもらうためには、いきなり裁判を起こすのではなく、裁判の前段階で交渉を行うことが一般的です。
これは、裁判になる前に話合いでの解決を目指すという意味合いもありますが、同時に、裁判となった場合に貸主側に有利に進めるための準備という意味合いもあります。
過去の裁判例では、裁判の前に誠実な態度で交渉をしたことが貸主側に有利な事情として考慮されている例が複数見られます。
例えば、東京地方裁判所判決平成22年9月29日では、貸主が借主に対して裁判の前に複数の移転先物件を紹介していることも考慮して、貸主の明渡請求を認めています。また、東京地方裁判所判決平成23年6月23日でも、貸主が借主に対し、2年半以上の期間をかけて、立退料の提供を申し出た上で、引っ越し先の物件を多数紹介するなど、借主の生活状況に配慮した誠実な対応を行っていることも考慮して、貸主の明渡請求を認めています。
このように、貸主が借主の立ち退きを求める場合に、裁判を行う前に誠実な態度で交渉を行うことは、裁判で貸主側に有利な事情として考慮される可能性があります。
そのため、裁判を行う前に事前に借主と交渉を行うことが重要です。
家賃の滞納などの賃借の著しい契約違反がない事案では、裁判において、貸主側からの明渡請求が認められるためには、「正当の事由」が認められる必要があります(借地借家法第28条)。
逆に言えば、「正当の事由」が認められなければ、借主に建物から退去してもらうことはできないということです。
この「正当の事由」とは、単に「貸主が建物を使いたいから」という理由だけで認められるものではありません。裁判所は、以下の事情などを総合的に考慮して、「正当の事由」があるかどうかを判断します。
そのため、裁判では、「なぜ貸主がその建物を使わなければならないのか」という必要性に加え、「借主側の建物の利用状況に問題があったこと」を具体的に主張し、証拠をもって証明することが重要となります。
裁判で「建物を明け渡せ」という勝訴判決を勝ち取ることができても、それだけで問題が解決するわけではありません。
勝訴判決が出たとしても、借主が任意で建物から退去してくれないケースがあるからです。
そのような場合には、強制執行の手続をとる必要があります。強制執行の手続とは、法律に基づいて、強制的に建物内の荷物を運び出し、建物内を空の状態にして、鍵を交換することで、建物の明渡しを実現する手続のことです。
強制執行の手続を行うためには、裁判所の執行官に対して強制執行の申立てを行う書面の作成や荷物を運び出す業者の選定など、専門的なノウハウが必要となります。借主の「建物からの退去」という目標を達成するためには、裁判で勝訴判決を得るだけでなく、この強制執行手続まで視野に入れた対応が必要です。
担当した弁護士の見解は、以下のとおりです。
借主の立場からすれば、これまで住んでいた建物から退去することは、重大な決断となります。そのため、最初から書面で退去してほしいと伝えることは適切ではなく、対面で説明し、理解を求めることが重要です。
本件では、まず弁護士から借主にコンタクトを取り、直接対面での面談の場を設けさせていただき、話合いを行いました。
具体的には、対面で、退去してほしいという希望を伝えたうえで、退去を求める理由を丁寧に説明しました。また、退去していただける場合には立退料をお支払いすることを伝え、その具体的な金額も提示しました。
さらに、退去した後の引っ越し先の紹介を行わせていただくために、引っ越し先の希望エリアをお聞きしました。
これに対し、借主からは、即決はできないので、少し考えさせてほしいと回答されたので、最初の面談は終了しました。
本件のような主に賃貸人側の事情により立ち退きを求める場合の立ち退き交渉の進め方については、以下で解説していますのであわせてご参照ください。
弁護士が面談を行った後は、面談で話した内容を証拠化するための行動を取りました。
具体的には、面談を行った後すぐに、面談で話した内容を書面にまとめて、借主に対してその書面を郵送しました。これによって、面談において、貸主側から借主に対し立退料の提示を行ったことや、引っ越し先の紹介の意思があることを、裁判で証拠として提示することができるようになります。
また、面談の後には、借主が希望するエリアの引っ越し先を複数回紹介しました。引っ越し先の紹介も書面で行うことによって、後日、証拠として提示することができるようにしました。
その後、借主からは賃貸人から提示した条件では退去する意思がないことの回答がありました。
この段階ですぐに諦めることなく、弁護士から、借主に対し、希望する立退料の金額を提示してほしいと伝えるなど、粘り強く交渉を行いました。しかし、本件では、借主からは希望金額を提示されることはなく、次第に連絡も取れなくなってしまいました。
借主と連絡が取れなくなったため、弁護士は、最終的には交渉の継続は不可能と判断し、裁判へと切り替えましたが、このように裁判前に「誠実な交渉」を行ったことが、後の裁判において勝訴判決を得るための一つの要因となりました。
裁判では、立ち退きを命じてもらうための「正当の事由」を具体的に主張し、証拠を提示し立証することに取り組みました。
具体的には、借主が玄関にガムテープを貼ったり廃棄物を放置したりといった「問題のある使用方法」をしていることを指摘し、その様子が写った写真を証拠として提示しました。
また、契約書においては、「借主は使用上の注意事項を遵守し、居住者並びに近隣の迷惑になるような行為をしてはならない」と定められていました。そのため、借主の行為が契約の規定に違反していることも指摘しました。
また、借主は、契約当初は保証人を設定していましたが、契約後に設定していた保証人が亡くなってしまった後は、新たな保証人を設定しませんでした。契約書では、「保証人が死亡したときは、その事実を速やかに貸主に通知し、貸主の承諾を得た者を保証人として追加しなければならない」と定められていましたので、保証人を新たに設定しない借主の行為は契約に違反していました。
そのため、裁判では、借主が契約に違反していることを主張するとともに、借主が保証人を新たに設定しなかった経緯を具体的に説明し、裁判所に理解してもらえるように努めました。
さらに、依頼者が建物を必要とする理由も主張しました。具体的には、依頼者が高齢であり、親族に同居してもらって生活のサポートを受けるためにどうしてもこの建物が必要であるという貸主側の切実な事情を丁寧に説明しました。
加えて、借主に対して、裁判の前に、立退料を提示したり引っ越し先を紹介したりするなど誠実な対応を行っていたことも主張しました。
このような主張を行った結果、裁判所からは、借主が新たな保証人を付けなかったことや、依頼者に自己使用の必要性があること、裁判の前に引っ越し先を紹介した経緯があることなどを理由として、立ち退きを求める「正当の事由」があると認められました。その結果、立退料として100万円を支払うことと引き換えに、賃借人に建物を明け渡すように命じる判決を得ることができました。
本件では、無事勝訴判決を得ることができましたが、それでもなお借主が自発的に退去することはありませんでした。そのため、判決で得た結果を実現するために、速やかに強制執行の手続を開始することとしました。
本件の判決には、「立退料100万円の支払いと引き換えに建物を明け渡せ」という条件が付いていました。そのため、強制執行を行うためには、立退料の支払義務を果たしておく必要があります。そこで、弁護士が直接、現金100万円を持って、借主の住んでいる家を訪問し、「立退料を支払うため退去してほしい」と伝えました。
しかし、借主は頑なに立退料の受け取りを拒否したため、弁護士は速やかに立退料としての100万円を供託所に供託しました。これによって、立退料の支払義務を果たしたことになり、強制執行を申し立てる準備が整いました。
このようにして準備が整ってからは、強制執行の申立書面を作成し、これを裁判所に提出し、速やかに強制執行を申し立てました。また、強制執行の手続では、建物内の荷物を持ち運ぶ運送業者や、鍵を開錠・交換する業者の手配が不可欠です。
これらの業者は、裁判所に選定してもらうこともできますが、作業の見積金額は業者によって大きく差が出ることもありますので、信頼できる業者を選ぶことが重要です。本件では、弊所がいつも依頼する業者に依頼することで、コストを抑えつつスムーズな作業を実現しました。
その後、弁護士が執行官や運送業者と連携し、手続を適正に進めることで、最終的に借主を建物から退去させることに成功しました。
依頼者は、長年借主の建物の使用方法に頭を悩まされてきました。今回、最終的に建物の明渡しが実現したことで、ようやくその大きなストレスから解放されることができました。また、当初の希望通り、空いた建物にはご親族が住むことが可能となり、今後は身近で生活のサポートを受けられる体制が整いました。将来への不安も解消され、今回の結果に非常に喜んでいただけました。
建物の明渡しを実現するにあたっては、単純に裁判を起こせばよいというわけではなく、事前に借主と誠実な交渉を行ったかどうかも判決に影響を与えます。また、裁判で勝ったとしても、借主が任意での明渡しに応じなければ、強制執行の手続を取る必要があります。
本件では、裁判を行う前の段階において、借主と直接対面で話合いを行ったうえで、複数回引っ越し先の物件を紹介するなど、誠実な態度で交渉を行い、任意での明渡しを求めていました。その結果、裁判において、裁判前に引っ越し先を紹介した経緯を一つの理由として、明渡しが認められることとなりました。
また、判決が出た後も借主が任意での明渡しに応じなかったため、直ちに強制執行の手続を取ることで、速やかに物件から強制的に立ち退かせることができました。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の不動産問題に関する弁護士への相談サービスは以下をご覧ください。
なお、今回の事案のような立ち退き交渉の対応について、以下でお役立ち記事も紹介していますのであわせてご参照ください。
家賃滞納などの著しい契約違反がない場合、賃借人の立ち退きは、賃貸人の一方的な意思だけでは実現できず、「正当の事由」の有無や交渉経過が厳しく問われます。そのため、対応には専門的な知識や実務経験が不可欠となります。
咲くやこの花法律事務所では、弁護士が、事案を丁寧に分析し、契約内容や使用状況、賃貸人・賃借人双方の事情を踏まえて、立ち退きが認められる可能性を検討します。そのうえで、立退料の提示や代替物件の紹介などを含めた適切な交渉方針を策定し、まずは任意退去の実現を目指します。さらに、交渉内容を証拠化し、将来の訴訟に備えた準備を行います。
交渉で解決しない場合には、建物明渡請求訴訟を提起し、「正当の事由」を具体的に主張・立証して判決による立ち退きを求めます。そして、判決後も任意の退去がなされない場合には、強制執行の申立てや業者手配を含めて一貫して対応し、最終的な明渡しの実現までサポートします。
本件のように、建物の明渡しをご希望の場合、裁判前の事前の交渉から、裁判後の強制執行の手続まで、不動産トラブルに強い弁護士に相談して対応することが重要です。賃借人の立ち退きについてお困りの賃貸人や不動産会社の方は、まずは咲くやこの花法律事務所までご相談ください。
咲くやこの花法律事務所の弁護士による相談費用
咲くやこの花法律事務所の立ち退き事案に関する弁護士への相談サービスへの問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
今回の解決事例は、「退去に応じない賃借人への対応。交渉・訴訟・強制執行で明渡しを実現した解決事例」についてご紹介しました。他にも、今回のような立ち退き事案に関連した不動産トラブルの解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。
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