今回の解決事例で書かれている内容(目次)
本件は、退職した元従業員から、会社は離職証明書において自己都合退職扱いとしたが、実際には会社都合退職であるとして、ハローワークに対して異議の申し立てがされた事案です。
その経緯を時系列順にご説明すると以下の通りです。
(1)この元従業員は、退職する前に、上司にセクハラを受けたと訴えていました。
(2)会社は、セクハラ被害の申告を受けて、セクハラについて調査を行うと共に、セクハラを行ったと申告された上司とこの従業員が一緒に仕事をすることがないように、業務を分離しました。
(3)さらに、会社は、セクハラについての事実関係を調査し、調査中はこの従業員に有休をあたえて休職させていました。
(4)調査の結果、会社は従業員が申し出たセクハラの事実が認められると判断しました。
(5)その後、この従業員から退職の申し入れがありました。
(6)会社は、セクハラを行った上司が退職することになったことも伝えて慰留しましたが本人の退職の意思は変わりませんでした。
(7)そこで、会社は自己都合退職として退職の処理をおこないました。
(8)退職した後、元従業員がハローワークに対し、退職の理由は、会社でセクハラを受けて辞めざるをえなかったこと、すなわち会社都合による離職であり、離職票の退職理由が間違っているとハローワークに申立てました。
(9)そのため、ハローワークから会社に対し、元従業員の退職理由に関して調査が行われることになりました。
本件で、もし元従業員の申立が認められ、会社都合による退職と判断された場合、会社は各種助成金の申請において一定期間(助成金の種類により半年から1年程度)申請ができないなどの不都合が発生することになります。
退職の経緯からすれば、セクハラが退職原因と認定されるのは、会社としては納得できません。
そこで、弁護士からハローワークに対し、自己都合退職として扱った会社の処理が正しいことを説明し、元従業員からの申し立てに反論していくことにしました。
弁護士から、退職の経緯および、会社が実施したセクハラ後の対応が十分であったことなどをハローワークに説明し、ハローワークにおいても自己都合退職扱いとすることが正当と判断してもらうことができました。
従業員の離職理由(会社都合か自己都合か)は、会社が離職証明書にどう記載したかだけで決まるわけではありません。
会社が自己都合扱いとしたことについて従業員から異議申し立てがあった場合、会社都合退職か自己都合退職かは、ハローワークが会社や本人から事情聴取を行い、それをもとにハローワークが判断し決定することになっています。
そして、会社の労務環境に問題があり退職した場合は、本人の意思による退職であっても、ハローワークにおいては会社都合退職と判断されることがあります。
本件では、元従業員は本人の意思により退職しましたが、退職前に会社に対し、セクハラ被害を訴えていたという事実がありました。
このような場合に、ハローワークにおいて、自己都合退職として扱うか、会社都合退職として扱うかが争いになることがあります。
今回のケースでは、会社がとったセクハラ後の対策が適切なものであり、退職理由は、会社側の事情によるものではなく、本人都合による自己都合退職であると認めてもらえるかどうかが争点となりました。
ここでは、担当弁護士による見解をご説明します。
本件では、まず、元従業員の退職までの経緯から考えて、「セクハラを受けて辞めざるをえなかったといえるような事情があったかどうか」を検討する必要があります。
本件では、会社が、セクハラの事実の有無を調査した結果、元従業員が訴えた、「上司から肩に手をかけられてそれを嫌がった」という、セクハラの事実が実際にあったことは認められました。
しかし、次の「理由1」~「理由3」の点で、元従業員が、セクハラを受けたことにより退職せざるをえなかったのではなく、雇用保険の失業給付において会社都合退職としてもらうことをねらって、セクハラが退職原因だと申し立てたことが疑われました。
その理由は以下の通りです。
理由1:
退職の原因として挙げたセクハラ行為が行われたのが退職申出の時点より半年前であったこと。
理由2:
セクハラ行為として挙げられたのは半年前の1件だけで、それ以外にセクハラの被害申告はなかったこと。
理由3:
セクハラの事実があった後退職までの半年間、上司によるセクハラ行為はなく、元従業員とも良好な関係で仕事をしていたこと。
これらの点を考えると、セクハラが退職の理由ではなく、会社都合扱いとしてもらうことで雇用保険の失業給付を多くもらうために、元従業員が会社都合退職とすることを求めているにすぎないと考えられました。
次に、セクハラの訴えに関して会社側のとった対応に問題がないかを検討しました。
これは、たとえ本人からの申し出による退職であっても、セクハラ被害後の会社の対応が不十分な場合、「セクハラ後も十分な対策がとられず、従業員は辞めざるを得なかった」として会社都合と判断されるからです。
厚生労働省のガイドラインよれば、「事業主がセクハラの事実を把握していながら、雇用管理上の措置を講じなかった場合に離職した場合」は会社都合に該当するとされています。
本件では結論からいうと、セクハラ被害の申告を受けた後の会社の対応は不十分な部分がありました。
まず、セクハラ被害の申告を受けた後は、会社として以下の4つの措置をとることが必要です。
セクハラはあってはならない旨の方針を就業規則やパンフレット等をつかって職場に周知すること。
セクハラ相談窓口と担当者を定め、セクハラの被害相談があったときの対応をとりきめておくこと。
申告されたセクハラ事実をすぐに調査し、事実であった場合には、関係者を配置転換するなどセクハラ被害が拡大しないための対策をとること。
セクハラ被害について相談された内容が他にもれないようにすること。また、相談者や調査に協力した者が、相談したことや協力したことにより不利益を被らないようにすること。
そして、これらの4つの措置すべてをセクハラ被害が訴えられてから、おおむね1カ月以内におこなわなければ、会社都合による退職と判断するというルールになっています。
ところが、会社は、上記の必要な4つの措置のうち、「1」,「3」,「4」は実施していましたが、2の「相談窓口の設置」は実施していませんでした。
本件では、セクハラ被害申告後に会社がおこなった措置は、「相談窓口の設置」をしていないという点で、厚生労働省のガイドラインを完全に満たすものではありませんでした。
そのため、ハローワークにおいて、会社がとった対策を説明しても、会社都合退職であると判断される可能性もありました。
しかし、元従業員の離職の経緯も踏まえると、セクハラ被害から6カ月も日がたってからの退職であることや、被害後も上司とは良好な関係で勤務していたことなどから、本当にセクハラを原因とする退職かについては、きわめて疑問がありました。
そこで、弁護士としては、会社がセクハラ被害の申告を受けた後に行った対策と退職理由についての疑念を合わせて説明することで、セクハラによる離職にあたらないことをハローワークに説明し、自己都合退職であったと認めてもらうという方針をとりました。
最後に本件の解決結果についてまとめておきます。
本件では、弁護士から、退職の経緯および、会社が実施したセクハラ対策の内容を、ハローワークに詳細に説明しました。
そして、元従業員がセクハラを受けて辞めざるをえなかったわけではないことを主張した結果、ハローワークにおいても、本件は自己都合退職であるという判断が維持されました。
前述の通り、ハローワークにおいて会社都合退職と判断されてしまうと、その企業が助成金を申請する際に申請が通らなくなることがあります。
一方、助成金の申請をしない会社にとっては、会社都合退職としても不利益はないと考えるかもしれません。
しかし、セクハラが退職原因として認められた場合は、次のステップとして退職者から「セクハラが原因で仕事を辞めざるを得なかった」として会社が損害賠償責任を追及されるという事態に発展する可能性も生じます。
そのため、退職理由を正しく判断しておいてもらうことは、助成金の申請をしない場合でも重要なことです。
また、セクハラに限らず、退職した従業員からハローワークに離職票の離職理由が間違っているとの申立てがあった場合に、会社が正しい説明をしてハローワークに会社の主張を認めてもらわないと会社が離職票に虚偽の記載をしたと受け取られる可能性も生じます。
そのため、ハローワークには退職理由について、常に正しい主張をしておくことが非常に重要です。
退職者との間で自己都合退職か会社都合退職かをめぐるトラブルが発生したときは、早めに咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士にご相談ください。
咲くやこの花法律事務所の「労働問題に強い弁護士への相談サービス」への今すぐのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。