今回の解決事例で書かれている内容(目次)
「建設会社」の解決事例です。
取引先に対して暴言を吐くなど勤務態度に問題があった従業員が、勤務中に役員と口論になって帰宅し、その後無断欠勤を続けた事案です。会社が、この従業員に連絡をしても、応答がなく、連絡が取れない状態でした。
そのため、この従業員に欠勤をしている理由を尋ねるために、複数回にわたって、従業員の自宅やその付近に様子をうかがいに行くなどしていました。
ある時、別の従業員がこの従業員にたまたま遭遇した際に、欠勤の理由を尋ねましたが、従業員は「体調不良」などと回答するだけでした。
欠勤から3週間ほどが経ったころ、別の会社従業員がこの従業員の自宅を訪ねましたが、従業員は、「2、3週間休むと(会社に)言ってくれ」というだけでした。そこで、訪ねた従業員が病院に診断書を取りに行くことを勧めても、診断書を出すほどの体調不良でないなどとして、従業員は拒否していました。
このような無断欠勤が1か月以上続いたため、依頼者の会社としては、その扱いに困り、この従業員に対し、復職する意思があるのか、それとも退職するつもりなのか、その意思を確認して欲しいとのことで、咲くやこの花法律事務所にご相談いただきました。
咲くやこの花法律事務所で依頼を受け、弁護士が無断欠勤を続ける従業員に対して復職する意思があるのか、それとも退職するつもりなのかその意思を尋ねる内容証明郵便を送付しました。その結果、問題の従業員と話し合いができ、最終的に合意退職を成立させることが出来ました。
本件は、当初、就業を継続する意思があるのか、それとも退職したいのかの意思確認の依頼でした。その後、担当弁護士が従業員と連絡を取れたのちは、会社の意向としてはこれまでの問題行動等を踏まえると、従業員に退職してもらいたいのでこの方向で交渉して欲しいとの依頼に変わっていきました。一方で、従業員の方は、担当弁護士が連絡を取ったところ、週明けに出社するなどと述べ、復職する意思があるかのような話をしていました。
このように、会社と従業員の意向が食い違っていました。そのため、後に争いにならない方法で従業員に退職してもらうにはどうするべきかが問題となりました。
退職に合意しない従業員に会社を辞めてもらうには、解雇という方法をとるしかありません。ですが、解雇した場合は、解雇が有効かどうかが後に争いになる可能性があります。もし、不当解雇とされた場合は、会社に対し、多額の支払いが命じられることとなります。特に、体調不良を理由とする欠勤については、私傷病休職を経るべきであり、休職の機会を与えずに解雇するのは不当解雇だという主張も考えられるところです。
加えて、普通解雇する場合、30日前に予告して解雇するか、最大30日分の賃金に相当する解雇予告手当を支払って解雇することとなります。このため、実際に解雇できるまでに時間や費用がかかってしまいます。
そこで今回は、後に問題を残さないためにも、解雇するのではなく、合意退職をしてもらうことを目指しました。
▶参考情報:普通解雇についてや、不当解雇と判断された場合のリスクについては、以下の記事を参考にしてください。
まず担当弁護士は、従業員に連絡を取るために、内容証明郵便を従業員の自宅に送付しました。これは、復職する意思があるのか、それとも退職したいのかを期限までに担当弁護士まで連絡するように求める内容でした。
▶参考情報:内容証明郵便の送り方については、以下の記事を参照してください。
内容証明郵便を送付すると、従業員から担当弁護士に連絡がありました。担当弁護士が従業員に退職するつもりなのか復職するつもりないのか確認すると、従業員は、週明けに出社するなどと復職する意向であると述べました。また、担当弁護士からこの従業員に無断欠勤の理由について尋ねたところ、その理由は、「しんどい。やる気が出ない。」「会社で揉めたことによって、外に出るのが嫌になった。」といったもので正当な欠勤理由ではないと思われました。
これを担当弁護士から会社に伝えたところ、会社は、これまでのこの従業員の勤務態度が良くなかったことや、1か月以上も連絡がとれなかったことを踏まえると、復職を受け入れることは難しく、退職の方向で話をしてほしいとの意向でした。
ところで、本件に関連する裁判例として、運送業者に勤務していた運転手が、搬送先での暴言を代表者に問いただされて、「もう勤まらない。」などと発言し、会社貸与の携帯電話や健康保険証を置いて立ち去ったという事案に関する裁判例があります。
この事案で、運転手は翌日以降出勤せず、会社は、これにより運転手は退職済みであると主張しました。しかし、裁判所は、問いただされたことに憤慨した運転手が、自暴自棄になって発言したものとみるのが自然であり、辞職または退職の意思をもって「もう勤まらない。」と発言したものとみるのは困難であるとして、会社の主張を認めませんでした。
その結果、会社は、この運転手との雇用契約が継続していることを判決で確認されたうえ、約250万円もの支払いを命じられることになりました(東京地判令和5年3月28日)。
このような事案を踏まえると、本件の従業員に対しても、口論になって帰宅し、翌日以降無断欠勤を続けているという事情だけでは、辞職や退職合意申込の意思表示があったとは言えず、雇用契約が終了したとはいえません。そのため、放置するのではなく、明確に雇用契約を終了させる必要がありました。
担当弁護士がこの従業員に電話をかけ、これまでの勤務態度が良くなかったこと、無断欠勤を1か月以上も続けており、今更会社に戻ってきた場合他の従業員に示しがつかないことなどの事情を話しました。そして、今回、会社としては合意退職をしてほしいと思っていると伝えました。
すると、従業員は、当初の連絡では、出社の意向を示していたにも関わらず、特に何か不満を述べることもなく、「分かりました」「自分の方が悪いので」などと述べました。そこで、雇用契約の終了を明確にするために、その従業員と会社との間で「退職合意書」を締結し、従業員には、合意退職をしてもらうこととしました。
担当弁護士が退職合意書を作成しましたが、その際に、会社からの要望として、会社から従業員に貸与した物品を全て返却してもらいたいという思いが強くありました。
そこで、退職合意書において、貸与物を返す旨を定め、どういった貸与物をその対象とするかを、会社と担当弁護士で検討しました。
また、会社は、従業員にこれまで迷惑をかけられており、貸与物の返却や私物の引き取りのためであっても、無断で会社に来社されたくないとの考えでした。そのため、退職合意書には、無断で来社してはならないことを明確に規定しました。また、担当弁護士は、従業員との間で、貸与物の受け渡しなどの日程調整も行いました。
最終的には、弁護士が従業員に退職合意書を発送し、その返送をもって従業員の合意退職が完了しました。
本件では、会社が自ら従業員に対し、欠勤している理由を尋ねていた段階では、なかなか連絡がとれない状況でした。特に、会社で口論になりその後従業員が無断欠勤をした事案では、その従業員と会社との関係性がこじれていることが考えられます。そのため、会社自身が従業員と連絡を取ろうとしても、連絡がとれない場合もあります。
しかし、それをそのまま放置しても雇用契約は終了しません。後で訴訟トラブルになれば、雇用契約が継続していることを判決で確認されることになります。
このような場面では、会社が第三者である弁護士に依頼することで、従業員も第三者である弁護士との間では冷静になって連絡を取ることができることがあります。その結果、会社と従業員との当事者同士では難しかった話し合いもスムーズに進めることができます。
この事案でも、会社と従業員とでやり取りをしていた段階では、従業員が会社の連絡に応答しないなど話し合いができる状況ではありませんでした。弁護士が代理人となって話し合いを進めたことで、比較的早期に退職合意がまとまりました。
この事案では、依頼者の会社は、無断欠勤を続ける従業員と連絡が取れず何をしたらいいのか分からず困っていた状況で咲くやこの花法律事務所にご相談いただきました。当初のご依頼は、前述の通り、復職するのか退職するのかの意思を確認して欲しいという内容でした。会社としては、ともかく従業員と連絡が取りたいとの思いが強かったと感じます。
ですが、担当弁護士が従業員と連絡を取ってからは、会社の希望は、この従業員に退職して欲しいというものに変わっていきました。ご依頼いただき、従業員と連絡を取ることができたため、会社は、従業員の退職に向けて、担当弁護士を介して話し合いを前に進めることができました。最終的に合意退職がまとまり、それを会社に報告した時には、心の重荷が取れたようで、大変喜んでいただけました。
咲くやこの花法律事務所では、従業員との労務トラブルへの対応について、企業側の立場でご相談をお受けしております。会社自身が従業員と交渉していても、話し合いが難しい場合は、第三者である弁護士に依頼することで話し合いがスムーズに進む可能性があります。自社で問題を抱え込むことなく、何かありましたら早めに咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の問題社員対応に関する弁護士への相談サービスは以下をご覧ください。
なお、今回の事案のような無断欠勤で連絡取れない社員への対応については以下の記事でも詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
咲くやこの花法律事務所の問題社員対応に関する弁護士への相談サービスへの問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
今回の解決事例は、「勤務中に口論になって突然帰宅し、その後連絡がとれない従業員との退職合意を成立させた事案」についてご紹介しました。他にも、今回の事例に関連した問題社員対応の解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。
・歯科医院で勤務態度が著しく不良な問題職員の指導をサポートした事例
・遅刻を繰り返し、業務の指示に従わない問題社員を弁護士の退職勧奨により退職させた解決事例