今回の解決事例で書かれている内容(目次)
「歯科医院」の事例です。
本件は、歯科医院の歯科助手として中途採用した従業員の勤務態度が悪く、診療や他の従業員に悪影響を与えていた事案です。
事案の詳細は以下のとおりです。
1,院長は、中途採用した受付スタッフの勤務態度が悪く、他の従業員からもこのスタッフに対する苦情が寄せられていました。
2,院長は、この問題社員と面談し、指導に対してあからさまに態度を悪くしたり、返事をしないなどの勤務態度を改めるように指導をしました。しかし、問題社員は、反省どころか、さらに勤務態度が悪化し、他のスタッフから問題社員が恐いために医院を辞めたいなどの相談も出るようになりました。
そこで、問題社員への今後の対応を相談するため、咲くやこの花法律事務所にご相談されました。
顧問契約を締結し、弁護士が院長に対して指導方法や指導記録の付け方などをアドバイスしました。
院長が、弁護士のアドバイスに従って指導等を行った結果、退職勧奨をせずとも、問題社員自らが退職を申し出てきて、退職することになりました。
院長は、ご相談に来られた当初、この問題社員との問題を早期に解決するため、解雇又は退職勧奨を希望されていました。
しかし、ご相談時点では、解雇は法的に難しく、また、これまでの「指導」も不十分で退職勧奨をしてもうまくいかないことが予想されました。そのため、解決を焦って解雇や退職勧奨を行うことは、問題の解決にはつながらない点を弁護士から説明しました。
問題社員を根気強く、正しく指導した上で、それでも改善がなされない場合に初めて、退職勧奨や解雇を検討すべきである点を説明しました。そのうえで、「指導」を続けて改善されなければ、退職勧奨等を行う方針をとることになりました。
まず、問題社員の勤務態度が悪い場合には、できるだけその場で改めるように指導することを徹底してもらいました。時間が経ってから指導しても、指導を受けることになった理由が不明確になるからです。
もっとも、問題社員がミスをした場合に、単に指導担当者が問題社員を叱りつけるだけでは「指導」にはなりません。なぜその行為が指導対象になり、職場にどのような悪影響を与えるかを説明したうえで、具体的な改善策を伝える必要があります。
例えば、「新人でもしないようなミスをしないでください」、「もっと集中して、仕事をしてください」では、これらが明らかとは言えません。
しかし、「今日、○○さんは、○○をしていましたが、そのようなやり方ではお客様が不快に思ってしまいます。理由は○○だからです。今後、○○というやり方をしてください。」であれば、指導理由や改善策が明確であり「指導」ということができるでしょう。
また、「指導」が、一方的な注意で終わることが無いように次の「1」~「3」を実行して頂きました。
指導を行うごとに、「指導書」を作成し、記録として残しておく必要があります。
これは、問題社員の問題行動を記録化して共有することにより、指導に役立てるためです。同時に、問題社員の能力や勤務態度に改善がみられず、やむを得ずに解雇等が必要になった場合に、問題社員の能力不足や勤務態度不良を示す証拠にもなります。
このため、指導書を作成する場合は、後で証拠としても使えるように以下の点の記載が必要となります。
問題社員に「業務日報」を作成してもらい、指導側はコメントをつけて返します。
問題社員に、毎日「業務日報」を記載させることで、従業員の仕事に対する理解度や、指導の理解度を図ることができます。問題社員がその日に指導を受けた事項を的確に記載し、改善策を記載しているのであれば、指導事項を理解していたことがわかります。
一方、従業員が指導事項を記載していなかったり、改善策としておかしなことを記載している場合は、前述の「1.指導内容の記録化(指導書の作成)」で作成した指導書と照らし合わせれば、従業員の理解が不十分な点が明らかになります。
指導担当者は、明らかとなった従業員の理解が不十分な点に対し、再度指導を行ったり、コメントに記載するなどして、改善を促すことが可能となります。
このため、「業務日報」には最低限以下の点を記載させることが必要です。
本件では、問題社員が上記ウの指導内容の記載を全くせず、ただ「出勤し、労働した」とだけ記載することがほとんどでした。
そのため、院長から、問題社員に対して、日報及び口頭で、その日に指導された内容の記載を求め続けていただくよう、弁護士から助言しました。
また、問題社員は、日報に「院長のように大ウソつき」、「裸の王様」といった表現を使用していました。そのため、このような表現は、他人に不快な思いをさせるだけなので、二度と行わないように指導をしました。
指導者は、数週間おきに業務日報と指導書をもとに問題社員と面談を行い、改善がみられない問題行動については直接指導を行うことが必要です。業務日報と指導書の作成に慣れてくると、緊張感が無くなり、指導効果が薄れてくるからです。
しかし、準備もせずに対面で話をしても「面談」の効果を得ることは難しいと思われます。そこで、事前に、問題社員から以下の「ア」~「ウ」の点を明らかにした書面(面談資料)を提出させることが必要となります。
これらを問題社員に記載させることで、これまで注意指導されたことに対する、問題社員の認識を把握することができます。
例えば、注意指導を何度も受けたにも関わらず、面談資料にそのことが記載されていない場合は、なぜ記載していないのかを確認し、そのことも含めて再度指導を行うことが可能となります。
問題社員は、度重なる院長の指導にも関わらず、「書く必要が無い」「書くことがない」として、「出勤し、労働した」のみ記載した業務日報を出し続けるなど、反抗的な態度を続けていました。また、日々の指導に対し、返事をしなかったり、物を放り投げるような素振りをみせることもありました。
反抗的な態度が改まらなかった場合、指導方法に迷いが生じることもあります。しかし、「反抗的な態度」をすること自体が「指導対象」となりますので、根気強く、そうした態度が問題であることを指摘して改善を求めることが必要です。そして、その記録を指導書に記録しておくことが必要です。
本件でも、院長は、問題社員が、指導に対して反抗的な態度をとることに、焦りや迷いが生じていました。そのため、弁護士から、指導に対して反抗的な態度を取ることもまた指導対象となる問題行動であることを伝えました。
そして、結局やるべきことは同じで、今までと同じように指導し、記録を付けていくことをアドバイスしました。その結果、院長は、問題社員から反抗的な態度をとられても、指導方法に自信をもって、指導を続けていくことができました。
本件では、問題社員の態度が全く改まらなかったため、指導開始から約2週間後に、「業務指導書」を交付して、文書での指導を行いました。
業務指導書は、これまで指導をしてきた内容を具体的に記載し、問題社員に対して、改善を求める文書です。問題社員と面談の上、内容を口頭でも説明し、改善を求めるよう指導し、署名・押印して院長に提出してもらう形式にしました。
しかし、問題社員は、業務指導書への署名押印を拒否し、勤務態度は相変わらず改まりませんでした。そのため、院長と弁護士とで相談し、就業規則に基づく懲戒処分をすることにしました。
懲戒処分をする際は、問題社員に対して、どのような事実について懲戒処分を予定しているかを告げ、問題社員の弁明(言い分)を聴くことが必要です。
そこで、弁明通知書には、これまで作成してきた指導書を利用し、問題行動となる具体的な事実を全て記載しました。
弁明の機会を与えるうえで、懲戒処分の対象となる事実の記載は、具体的である必要があります。抽象的な記載では、いつのどの出来事か問題社員が特定できず、弁明ができないため、その機会を与えたことにならないからです。
そのため、弁明通知書のもととなる指導書の作成段階から、具体的な「事実」の記載を意識する必要があります。
ダメな例とよい例を挙げるとすれば、以下の通りです。
●ダメな例
●よい例
そして、これらの事実は、日時を特定して記載することが必要です。本件では、弁明通知書に記載した事実は50を超え、A4用紙10ページ以上にも及びました。
院長は、弁護士のアドバイスを受けながら、弁明通知書を作成し、問題社員に提出期限を定めて交付しました。その後の提出期限の前日、院長から、問題社員に対して、明日が弁明の提出期限であることを伝えました。
すると、問題社員自らが、院長に対して、「退職したい」と言ってきたため、退職に応じることになりました。
※この段落で解説している「問題社員への指導方法」や「懲戒処分」については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧ください。
▶参考情報:問題社員を指導する方法をわかりやすく解説
▶参考情報:懲戒処分とは?種類や選択基準・進め方などを詳しく解説
上記のような争点を踏まえて、本事案の担当弁護士の見解を解説していきます。
今回の問題社員は、指導をしても全く勤務態度が改善しませんでしたが、指導はあくまで問題社員に改善を求めるために行います。
解雇や退職勧奨をするために行うのではありません。改めるべき点を改めてもらい、職場の戦力になってもらうために行うのです。
そのため、指導は一方的に叱りつけたり、ダメ出ししたりするのではなく、問題点を指摘したうえで、どのように改善すればよいかを具体的に指導することが必要です。
指導記録は、後々の紛争が生じた場合に強力な証拠となることは間違いないですが、あくまで問題社員の改善に役立てるために作成することが必要です。
指導ごとに作成する「指導書」と従業員が作成した「日報」は、毎回の作成やチェックが必要になるので、作成には大きな手間がかかります。
しかし、両方を照らし合わせることで、指導に対する従業員の理解度を確認することができます。口頭だけでの指導では記録が残りませんが、指導書と日報の両方の記録を残すことで、問題社員の理解度が一目瞭然となります。
口頭で注意を行う場合はもとより、懲戒処分を行う場合には、従業員の行った具体的な行動を特定することが不可欠です。
日報や指導書は、具体的な行動を特定する際に役立ちます。その都度正しい指導をしていても、時間が経てば、いつどのような行為に対して、どのような指導をしたのかを特定することは非常に困難です。
院長が自ら指導すれば、指導の効果が期待できますが、通常業務で忙しい院長にとって、指導を続ける時間的・精神的負担は非常に大きいものです。
特に、問題社員に改善が見られない場合は、早急に解雇してしまおうと考えたり、指導を諦めたくなりがちです。しかし、弁護士の専門的で適切なサポートを受けることで、やるべきことを明確にし、期限を決め、正しいと思える方法で指導を続けることができました。
当初は、2か月程度の時間をかけて問題社員を指導し、改善が見られなかった場合にその程度に応じて、懲戒処分や、退職勧奨等を検討する予定でした。
もっとも、問題社員の業務態度があまりに改まらないため、早めに懲戒処分をするための手続に入ることになりました。その結果、顧問契約をいただいてから、1ヶ月半ほどで問題社員が自ら退職をしました。
院長が、根気強く指導を行った結果、問題社員から退職を申し出、退職勧奨も行わずに終了しました。勤務態度が悪かった問題社員ですが、自分から退職の選択をしたため、今後争いになるリスクは非常に低いと思われます。
根気強く指導を行うためには、自分の指導方法に自信をもって毅然と行うことが必要です。
また、問題社員の態度に全く改善が見られなかったため、当初方針を変更しましたが、臨機応変な対応も、今回の結果につながったと思われます。
本件では、院長と弁護士とのやりとりは、遠方かつコロナ禍という事情もありましたので、方針決定から具体的な指導方法のアドバイス、書類の記載方法まで、非対面の手段(電話、メール、Zoom)で行いました。非対面でも全く問題がなく、対面での打合せの必要もなく、幅広くサポートすることができました。
最後に「的確なご指導を本当にありがとうございました。」とのお声を頂けましたので、お喜びいただけて本当に良かったと思っています。
今回のような問題社員の対応方法については以下でも解説していますのであわせてご参照ください。
また、咲くやこの花法律事務所では、問題社員対応に悩む事業者の方からご相談を受け、顧問弁護士サービスによるサポートを行っています。咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスは以下をご参照ください。
咲くやこの花法律事務所の労働問題トラブルに強い弁護士への今すぐのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
今回は、「歯科医院で勤務態度が著しく不良な問題職員の指導をサポートした事例」について、ご紹介しました。
他にも、今回の労働問題トラブルに関連した解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。
・退職勧奨を一度断った能力不足の看護師に対して弁護士が支援して指導を継続し退職合意に至った事例
・業務に支障を生じさせるようになった従業員について、弁護士が介入して規律をただし、退職をしてもらった事例
・歯科医院の依頼で能力不足が顕著な職員の指導をサポートして問題解決した成功事例
・不正をした従業員について、弁護士が責任追及をし、退職してもらった事案
・成績・協調性に問題がある従業員を解雇したところ、従業員側弁護士から不当解雇の主張があったが、交渉により金銭支払いなしで退職による解決をした事例
・遅刻を繰り返し、業務の指示に従わない問題社員を弁護士の退職勧奨により退職させた成功事例