労働問題・労務の解決実績

入社後すぐに抑うつ症状で休職していた従業員が「復職可能」の診断書を提出。無理な復職希望を断って退職による円満解決をした事例

入社後すぐに抑うつ症状で休職していた従業員が「復職可能」の診断書を提出。無理な復職希望を断って退職による円満解決をした事例

この解決実績を紹介する弁護士

  • 代表弁護士  西川 暢春
  • 咲くやこの花法律事務所  代表弁護士  西川 暢春

    咲くやこの花法律事務所の代表弁護士。出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、病院・クリニック関連、顧問弁護士業務、その他企業法務全般」です。
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1,業種

 

「製造業」の会社の事案です。

 

2,事案の概要

 

事案の概要は、以下の通りです。

 

(1)休職に至る経緯

新卒採用した従業員が、入社式や外部のビジネスマナー研修を経て、本社での研修中の4月20日に体調不良を訴えて実家に帰省しました 。そして、翌日4月21日に「抑うつ状態」と診断され、5月20日までの自宅療養が必要との診断書が会社に提出されました 。これを受けて、会社は、4月26日、この従業員に休職命令書を交付して私傷病休職を命じました。

 

▶参考情報:私傷病休職とは、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

私傷病休職とは?制度の内容と流れをわかりやすく解説

 

(2)休職後の経緯

その後、5月20日に、この休職者から、さらに5月21日から6月20日までの自宅療養が必要であるとする診断書が提出されました 。

この会社では、就業規則において、入社1年未満の従業員の休職期間を1か月と定めていました。そのため、会社から、この休職者に「6月20日まで自宅療養が必要という診断書を提出してもらいましたが、就業規則に基づき5月26日で休職期間満了になります。」と伝えました。そうすると、この休職者は、一転して、「5月26日より復職可能(当面残業と深夜勤務不可)」とする主治医の診断書を提出しました。

会社としては、当初主治医が6月20日まで自宅療養が必要と診断していたのに、休職期間満了日を伝えたところ、一転して「5月26日より復職可能」と診断が変更されたことに疑問を感じ、咲くやこの花法律事務所にご相談いただきました。

 

3,問題の解決結果

 

休職期間を延長したうえで、主治医に復職可能と診断した根拠などを確認する医療照会を行いました。また、これと並行して、休職者に生活状況記録表を提出してもらい、体調の把握を行いました。その結果を踏まえて従業員に退職の方向で説得し、無事退職届が出て円満解決できました。

 

4,問題解決における争点(弁護士が取り組んだ課題)

 

本件の争点は、以下の通りです。

 

(1)主治医の診断への疑問

本件では、当初主治医が6月20日まで自宅療養が必要と診断していたのに、会社から休職期間満了日を伝えたところ、一転して休職期間満了日の翌日から復職可能であるという診断に変更されたという事情がありました。

このような事情から、ご相談をお受けした弁護士としても、体調が回復したことにより復職可能であると診断されたのではなく、休職期間満了による退職を避けたいという休職者の意向から、主治医が復職可能という診断を書いたのではないかという疑念が生じる事案でした。

特にメンタルヘルス不調による休職では、まだ十分に回復していない段階での無理な復職は、本人の症状を悪化させることになるうえ、職場内でもトラブルの原因になります。そのため、弁護士として、休職者の症状が本当に回復したのかを確認する必要があると感じました。

 

(2)会社が復職を認めない場合の法的リスク

一方で、上記のような疑問があるからといって、会社が復職を認めずに、休職期間満了として退職扱いにすることには、重大なリスクがあります。

休職者の立場からすると、主治医に復職可能と診断されている以上、会社が復職を認めないのは不当であると考えるでしょう。そして、訴訟になった場合、医療の専門家である主治医が復職可能と診断している一方で、復職を認めなかった会社の判断には医学的根拠がない以上、退職扱いは認められず、会社が敗訴する危険が非常に高いのです。

本件は、産業医の選任義務がなく、産業医のいない会社の事案でした。会社が上記のような法的リスクを回避するためには、会社として復職は認められないと判断する場合も、休職期間満了により退職扱いとする一方的な解決ではなく、休職者との合意による解決が必要でした。

 

▶参考情報:休職期間満了を理由に従業員を退職扱いすることのリスクや注意点については以下で解説していますのであわせてご参照ください。

怖い休職トラブル!休職期間満了を理由に従業員を退職扱いや解雇する際の注意点

 

(3)休職期間の延長

休職者との合意による解決とは、休職者との話し合いにより退職に向けた説得を行い、これに応じて退職届を提出してもらうという退職勧奨のプロセスです。

退職勧奨は、本人の納得による合意が大前提になります。そのため、復職が認められないと判断する場合は、そのことをどのようにして休職者に説得し、納得してもらうかという点が課題になりました。

休職者に納得してもらうためにも、最初から診断書は怪しいと決めつけるのではなく、まずは中立公正な立場から復職審査を行うことが必要でした。そして、そのためにも、就業規則上は5月26日までであった休職期間を復職審査のために延長することが必要になりました。

 

▶参考情報:退職勧奨に関するに全般的な解説については以下の記事をあわせてご参照ください。

退職勧奨(退職勧告)とは?適法な進め方や言い方・注意点を弁護士が解説

 

5,担当弁護士の見解

 

担当した弁護士の見解は、以下のとおりです。

 

(1)まずは復職面談を実施

このような事案で、まず実施するべきことは、休職期間の延長と復職面談です。

本件では、就業規則上は5月26日までであった休職期間を復職審査のために6月20日まで延長することを休職者に通知しました 。そして、復職審査を進めるために、休職者に日時を指定して出社を求め、本社で面談を実施しました 。

このように出社を求めることは、休職者が指定された時刻に遅れることなく、またトラブルなく出社できるかを実際に確認する意味もあります。面談では、休職者の体調や生活状況の確認、主治医への相談状況の確認を行い、今後会社が予定している復職審査の手順を説明することが必要です。また、この復職面談の際に、休職者が復職した場合に予定している業務をこなせるのかについて、休職者自身に確認してもらうことも必要です。

そのため、復職した場合の仕事内容を業務一覧表に整理したうえで、休職者に提示して、本人に確認してもらう作業を1つずつ行うことが大切です。

 

▶参考情報:病気休職者の復職面談については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

病気休職者の復職面談!復職判定の7つの注意点を解説

 

(2)生活記録表の提出を求める

メンタルヘルス不調で休職していた従業員の復職にあたっては、夜寝て朝起きるという生活リズムが整っているかを確認することが大切です。

そのため、会社において、生活記録表の用紙を準備し、休職者にこれを毎日メールで会社に提出するように依頼することが、復職可否の判断を正しく行う観点から重要になります。本件でも、休職者に生活記録表を毎日会社にメール送信するように求めました 。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

休職者に提出してもらう生活記録表の用紙には、単に生活の記録を書き込むことができるだけでなく、本人が感じたことや気分、体調、主治医の話などを自由に書き込める備考欄を設けておくことが大切です。そのような欄を設けることで、その記載内容が復職可否の判断に役立つことは多いです。

生活記録表の書式例は、「訴訟リスクを回避する3⼤労使トラブル円満解決の実践的⼿法ーハラスメント・復職トラブル・残業代請求」(西川暢春、井田瑞輝、木澤愛子著)の160ページに掲載していますので参照してください。

▶参考:「訴訟リスクを回避する3⼤労使トラブル円満解決の実践的⼿法ーハラスメント・復職トラブル・残業代請求」(西川暢春、井田瑞輝、木澤愛子著)

訴訟リスクを回避する3⼤労使トラブル円満解決の実践的⼿法ーハラスメント・復職トラブル・残業代請求

 

(3) 主治医への「医療照会」の実施

このように生活記録表の提出を求めるのと並行して、主治医に休職者の病状の詳細を確認する「医療照会」を実施します。

本件で、特にポイントとなったのは、休職者が提出した「復職可能」の診断書が、本当に体調が回復したことによるものか、それとも退職を避けたいという休職者の希望によるものかを見極めることでした。そこで、この点も含めた医療照会を主治医に対し実施しました。

 

▶参考情報:主治医に対する医療照会の書式例は、「訴訟リスクを回避する3⼤労使トラブル円満解決の実践的⼿法ーハラスメント・復職トラブル・残業代請求」(西川暢春、井田瑞輝、木澤愛子著)の99ページに掲載していますので参照してください。

訴訟リスクを回避する3⼤労使トラブル円満解決の実践的⼿法ーハラスメント・復職トラブル・残業代請求

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

主治医への医療照会は、休職者から主治医に手渡ししてもらうのではなく、会社から主治医に直接送ることが適切です。休職者からの手渡しでは、その回答も休職者の意向に配慮したものになり、主治医の本音の意見を聴けない可能性があります。会社から主治医に郵送して、会社↔主治医間でやりとりすることもできますが、会社は弁護士に依頼して弁護士から発送してもらうと、主治医に慎重に判断したうえで回答してもらうことを期待しやすくなります。

 

(4) 主治医からの回答と生活記録表の内容

本件では、休職者から提出された生活記録表の備考欄の記載が復職可否判断の大きなポイントになりました。

休職者が毎日メールで送ってくる生活記録表の備考欄には、復職面談のために本社に出社したことをきっかけに体調を崩して薬を増やしていること、夜寝れずに目が覚めること、希死念慮の症状が出ていることなどが詳細に記載されていました 。これは、復職できる健康状態にまで回復したとはいえないことを明らかに示すものでした。

また、主治医に対する医療照会の回答でも、「症状は改善傾向にあるが十分な回復とは言い切れない」との見解が示されました 。また、主治医は、復職診断書発行の理由について、「休職期間満了が近づいているので復職したい旨の申し出が患者からあった」 、「就業規則も踏まえ、本人の希望もあったことから復職診断書を発行した」との回答を記載してきました。

このような主治医の回答と生活記録表の内容から、会社として、この休職者の体調が十分には回復しておらず、復職できる状態ではないと判断し、退職する方向で休職者を説得することにしました。

 

(5) 円満退職に至る

会社は、休職者と再度面談を実施し、その中で、主治医からの回答内容や生活記録表の記載から、会社としてまだ復職できる状態ではないと判断していることを伝えました。そのうえで、合意による退職の場合は会社都合退職として扱うことを伝えて、退職への同意と退職届の提出を求めました。休職者も、このような客観的な資料を踏まえた説明に納得し、無事退職届を提出して円満退職となりました。

 

6,解決結果におけるまとめ

 

本件のような事案では、主治医から復職可能という診断書が出されている以上、休職期間満了による自然退職で対応することは会社として重大なリスクを伴います。本件では、休職期間を延長する手続きをとり、復職審査を行ったことで、本人の納得による退職による円満解決を実現し、紛争リスクを回避することができました。

中立公正な立場からの復職面談の実施、生活記録表の提出依頼、主治医に対する医療照会がその重要なポイントになりました。特に、医療照会により、「休職期間満了が近づいていること」や「休職者の希望」で復職可能とする診断書が発行されたことが判明し 、これを休職者に対する説得材料とすることができました。また、生活記録表に記載された具体的な症状(希死念慮など) から、体調が改善していないことが明らかになり、これも復職不可の判断と円満退職に至る重要な裏付けとなりました。

本件で仮に主治医の診断通り復職させていた場合、復職後に本人が体調を悪化させ、より深刻な事態になっていた可能性は高いと考えられます。弁護士にご相談いただき正しい対応をできたことが、結果として、本人の体調悪化を防ぐことにつながり、また、本人の復職を不安視していた会社の担当者に安堵していただくこともできました。

咲くやこの花法律事務所では、本件のようなメンタルヘルス不調による休職者からの復職可否判断について、たくさんの事業者からご相談をいただいています。1つ間違えると大きなトラブルになる分野でもあります。対応に迷われたときは自社流で進めるのではなく、早めに咲くやこの花法律事務所にご相談いただきますようにお願いいたします。

 

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の労働問題トラブルに関する弁護士への相談サービスは以下をご覧ください。

労働問題に関する弁護士への相談サービスはこちら

 

なお、今回の事案のような従業員がうつ病による体調不良を訴えた際の対応について、以下でお役立ち記事も紹介していますのであわせてご参照ください。

うつ病での休職!診断書や基準、期間、手続きの流れなど会社側の対応方法

従業員に精神疾患の兆候が出た際の会社の正しい対応方法を解説

 

7,咲くやこの花法律事務所の従業員の休職・復職対応に関する弁護士への問い合わせ方法

数々の実績と豊富な知識のある弁護士がサポート!labor-problemに関するサポート内容について詳しくはこちら

 

従業員がうつ病による体調不良を訴えた際の対応など、咲くやこの花法律事務所の労働問題に関する弁護士への相談サービスへの問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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