今回の解決事例で書かれている内容(目次)
本件は、運送会社を退職した従業員が弁護士に依頼して会社に残業代を請求し、咲くやこの花法律事務所が会社の依頼を受けて解決したケースです。
事件の発端は、退職者が依頼した弁護士から会社宛てに通知書が届いたことでした。
通知書には未払いの残業代の支払いを求める内容と、1週間以内にタイムカード等の資料を送付せよという要求が書かれていました。
運送会社は、この通知書に対してどのように対応すればよいかとのことで、ご相談にお越しになりました。
ご依頼をお受けして労働問題に強い咲くやこの花法律事務所の弁護士が運送会社の代理人として従業員側弁護士と交渉しました。
従業員側から500万円を超える残業代の請求を受けましたが、弁護士による交渉の結果、約1/4に支払額を減額する内容での和解が成立しました。
交渉過程では、この従業員の在職中の労働時間の計算と運送会社の資力が主要な争点となりました。
以下、順に説明します。
従業員側弁護士はタイムカードの提出を求めましたが、運送会社にはタイムカードがありませんでした。
そこで、咲くやこの花法律事務所の弁護士が運送会社の代理人として、従業員が乗車していたトラックのタコグラフのチャート紙と従業員が提出した作業日報に記載された始業・終業時間をもとに労働時間を算定すべきことを主張しました。
なお、タコグラフとは、トラックに搭載されている運行記録用計器です。
トラックの運行時間中の速度変化がチャート紙にグラフになって表示されます。このように労働時間をどのように計算するかが争点の1つとなりました。
従業員は、作業日報やチャート紙の終了時間が実際の業務終了時間ではなく、毎日、トラックを停めた後に30分程度の残業を行っていたと主張しました。
そのため、業務終了時刻をどのように考えて残業代を計算するかが2つ目の争点となりました。
従業員は運送の際、目的地到着後、2時間から4時間程度、トラックを停車させていました。
従業員は、このトラックで待機中も、無線機を使って、進捗状況を運送会社に報告する必要があったから、停車時間(手待ち時間)は労働時間であり、賃金の支払い対象であると主張しました。
そのため、手待ち時間が労働時間にあたるかどうかについても、争点となりました。
本件ではそれぞれの争点について、会社側弁護士として、以下の方針で交渉を進めました。
労働時間の計算方法については、会社側で主張した通り、タコグラフのチャート紙と従業員が提出した作業日報に記載された始業・終業時間をもとに労働時間を算定することを従業員側に認めさせることができました。
前述の通り、従業員は、毎日、トラックを停めた後、平均30分程度の残業を行っていたと主張しました。
そこで、この主張が正しいのか、弁護士は運送会社に確認しました。
すると、従業員はトラックを停めた後、会社にチャート紙を提出するという作業を行っていたものの、その所要時間はせいぜい5分程度であったことが判明しました。
従業員は会社にチャート紙を提出すると、すぐに帰宅していました。
そのため、弁護士から従業員の主張について反論し、その上で、まれに従業員が後片付けを手伝っていたことを理由に、チャート紙の「業務終了時間+15分」について、労働時間として認めるという提案をして交渉しました。
目的地で停車している時間(手待ち時間)を労働時間であると認めると未払賃金は500万円を超えることになり、認めないと未払賃金は120万円程度になります。
そのため、目的地で停車している時間をいかに考えるかが、交渉の主戦場となりました。
この点について、会社側弁護士として、以下のとおり主張し、おおむね会社側の主張を解決額に反映させることができました。
高速道路が混雑しない早朝に目的地に到着するために、午前3時台に出発し、目的地到着後は仮眠を取っていたと従業員本人から報告を受けていた。
午前6時台に目的地に到着しても、目的地の担当者が誰も出勤していない。
また、無線機で運送会社に進捗状況を報告しようにも、運送会社にもまだ誰も出勤していない。一番早く出勤する社長ですら、午前8時30分出勤であるから、進捗状況を報告するとしても、その時間以降である。
従業員が目的地で停車している時間について、チャート紙に「休」と記入して運送会社に提出しており、休憩時間であったことを認めていた。
運送会社はコンテナ輸送を専門にしており、ドライバーが目的地で荷下ろし作業に関わることはない。トラックに鍵をかけて、自由に現場を離れることができた。
以上の反論をした上で、従業員がトラブル発生時に運送会社に無線機で連絡して上司の指示を仰いだことがあったため、目的地停車中の時間中、「15分」に限り労働時間として認めると譲歩しました。
交渉においては、運送会社の資力もテーマになりました。
運送会社は今回の交渉の途中で既に休業していました。弁護士は、会社の資力に関する実情も従業員側弁護士に伝える必要があると判断し、従業員側から残業代を求める訴訟提起をされても判決時には会社に資力がほとんどない可能性が高いと説明しました。
しかし、資力がないと伝えても、従業員が直ちに信用してくれるわけではありません。従業員は、運送会社が複数台のトラックを保有しており、資産があるはずだと反論してきました。
そこで、弁護士は、運送会社に本当に資力がないことを証明するため、運送会社に以下の資料の提供をお願いしました
弁護士は、これらの資料をもとに、運送会社の資力に関する報告書を作成しました。
その結果、従業員側に会社に資力がないことを理解させることができ、従業員より、こちらの提示する金額での和解に応じるとの回答がありました。
本件では、最終的に従業員の請求金額の1/4程度で和解することができました。
会社は従業員の労働時間に見合った賃金を支払わなければなりません。しかし、従業員側から過剰な請求があれば、正当な金額を提示して交渉しなければなりません。
本件では、従業員側より手待ち時間がすべて労働時間にあたるという極端な主張がありました。
一般に、トラックの運転手は目的地到着後も荷下ろし作業等を行うため、タコグラフのチャート紙上は停車していたとしても、実際に作業を行っている可能性もあります。
しかし、今回ご相談頂いた運送会社については、コンテナ輸送専門という特殊性があったため、目的地到着後に行う作業はほとんどないと反論することができました。
また、本件では、早期解決のために、運送会社としてもできるだけ譲歩して解決金を提案しましたが、従業員が簡単には受け入れませんでした。しかし、会社側弁護士として粘り強く交渉することで、大幅な減額を実現することができました。
なお、今回のケースでは、会社の資力も問題になりましたが、残業代請求する従業員も、従業員から委任を受けた弁護士も、資力がないという理由のみで、簡単に請求を断念することはありません。
会社に対する残業代請求だけでなく、会社の役員個人に対して損害賠償請求をしてくるというケースもあります。
そのため、残業代請求を受けた会社としては、資力がないと開き直ってよいわけではなく、できる限り法的に正当性を有する反論をしなければなりません。
従業員からの残業代請求への対応にお困りの企業様はぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
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今回の解説実績は、「手待ち時間が労働時間でないことを認めさせ、従業員からの残業代請求を約1/4に減額して解決した事例」についてご紹介しました。
残業代トラブルは従業員を雇用している企業にとっては、どの企業も発生する可能性があります。
そのため、以下では今回ご紹介してきた解決実績と合わせて、残業代トラブルに関するお役立ち情報を以下でまとめておきますので、合わせてご覧下さい。
▶従業員から未払い残業代請求された際の会社側の反論方法を弁護士が解説
▶固定残業代制度(みなし残業代)の導入時の3つの注意点!トラブル急増中です