社内で暴力をふるう社員について弁護士が調査して暴力行為を認定して退職させた解決事例
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社内で暴力をふるう社員について弁護士が調査して暴力行為を認定して退職させた解決事例

社内で暴力をふるう社員について弁護士が調査して暴力行為を認定して退職させた解決事例

この成功事例を紹介する弁護士

  • 弁護士  木曽 綾汰
  • 咲くやこの花法律事務所  弁護士  木曽 綾汰

    出身地:広島県福山市。出身大学:大阪大学法学部法学科。主な取扱い分野は、「労務・労働事件(企業側)、債権回収、消費者クレーム・取引トラブルの解決、IT関連トラブル、契約書のリーガルチェック、警備業法関連、顧問弁護士業務など」です。

1,業種紹介

 

「運送業」の事例です。

 

2,事件の概要

 

本件の相談者は、数年前から社内で暴力を振るう従業員がおり、その従業員がいることが原因で退職する従業員も現れるような事態に陥っていました。暴力社員は、社長(相談者)の指示や指導にも従わないことがあり、社長から退職の話を行うと暴力社員から反発を受ける可能性もありました。そこで、社長は、このような事態にどのように対処するかお困りになり、咲くやこの花法律事務所にご相談がありました。

 

3,問題の解決結果

 

まず、暴力行為の事実があったか否かを確かめるため、弁護士が被害社員や暴力社員、目撃者に対する聞き取りなどの調査を行い、暴力行為の事実があったことを認定しました。

そして調査結果をもとに暴力社員に対して懲戒処分を経て、弁護士が会社を訪問して退職勧奨を行った結果、退職に同意させることができました。

 

4,問題の解決におけるポイント

 

問題解決におけるポイントは、以下の3点でした。

 

(1)最初に暴力行為の調査を行う

従業員から暴力行為を受けたとの報告があったとしても、その暴力行為がいつ、どこで、どのように行われたのかを特定することができなければ、適切な対応を行うことはできません。また、何らかの理由により、実際には暴力行為はなかったのに、暴力を受けたと主張している可能性も否定できません。

そのため、まず最初に、「① 物的証拠の確保」、「② 被害者、加害者、目撃者への聞き取り」など、暴力行為に関しての調査を行う必要がありました。さらに言えば、本件では、暴力社員の態度から、少なくともきちんと暴力行為を調査し、正式な対応をしなければ、暴力社員は退職に同意することはないと考えられましたので、その意味でもしっかりした調査が必要でした。

 

(2)どのような暴力行為があったかを認定する

暴力行為の調査を行っても、被害者と加害者の言い分が異なっている場合には、一見どちらの言い分が正しいのかわからない場合もあります。

このような場合には、どちらの言い分が信用できるかを判断し、「暴力行為があったのか」、「暴力行為があったと判断する場合、いつ、どのような暴力行為が行われたのか」を認定する必要があります。被害者と加害者のどちらの言い分が信用できるかは、「物的証拠や目撃者の証言との矛盾がないか」、「供述の態度に不自然な点がないか」、「供述に変遷がないか」などによって判断する必要があります。

 

(3)解雇ではなく退職勧奨を行う

本件で暴力による被害を受けていた従業員の方は、暴力社員をすぐに解雇することを望んでいました。また、暴力社員がいることが原因で退職する従業員も現れるような状況で他の社員にも不満がたまっており、早急に暴力社員を辞めさせなければ従業員らの士気が下がることは明らかでした。

しかし、一方で、本件では、暴力行為によって重大な怪我などは負わせていませんでした。また過去の暴力行為について会社から「暴力を行ってはいけない」と口頭での注意は行っていましたが、暴力行為の経緯や態様などの調査を経た上での正式な指導や懲戒処分などは行えていませんでした。

このような事情に照らすと、過去の裁判例を参考にしても、本件で解雇した場合、解雇後に訴訟を起こされれば解雇が無効と判断されて会社が敗訴するリスクが高いと思われました。

そこで、本件では、解雇も視野に入れつつも、まずは、一方的に従業員を辞めさせる解雇ではなく、退職勧奨を行い、合意によって退職してもらうことで、会社のリスクを抑えながら問題を解決することを目指しました。

 

▶参考情報:退職勧奨とは?以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。

退職勧奨(退職勧告)とは?適法な進め方や言い方・注意点を弁護士が解説

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

暴力があれば当然解雇が認められるという誤解も多いですが、過去の裁判例では、暴力が認められる事案でも暴力を理由とする解雇を無効と判断し、企業側を敗訴させたものが少なくありません。裁判例の状況等を以下の記事で解説していますのでご参照下さい。

▶参考情報:社内で暴力を振るった社員の対応の重要ポイント

 

5,担当弁護士の見解

 

上記のようなポイントを踏まえ、弁護士は実際に次のように対応しました。

 

(1)暴力行為の調査について

 

1,当事者からの聴き取りは不合理な供述もそのまま記録に残す

暴力行為の調査にあたっては、まず、暴力被害を受けていた従業員に対して弁護士が聞き取りを行いました。その後、被害社員に聞いた内容をもとに質問事項を作成し、暴力社員に対しても聞き取りを行いました。

これらの聞き取りの目的は、あくまで当事者双方の認識する事実関係を聞き取ることであり、事実と異なることを問い詰めることではありません。本件では、被害社員と暴力社員の供述が異なる部分もありましたが、そのような場合も、その場では指摘せず供述をそのまま記録に残すことが、まずは必要です。不合理な供述もそのまま記録に残すことで、後でその信用性をチェックすることができるようになります。

 

2,目撃者からの聴き取り内容も記録に残す

本件では、暴力行為を目撃した従業員が多数いました。そのため、弁護士が目撃者複数名からも聞き取りを行いました。

このような聞き取り調査を行う場合、調査結果を後日、証拠として提示することができるように、聴き取り内容の記録を残しておくことが重要です。記録の残し方としては、以下の方法が考えられます。

 

  • ・聞き取り内容の録音
  • ・聞き取り内容をまとめて文書化

 

本件では、聞き取り調査を行う際に、弁護士が、録音機を使って録音を取ったうえで、聞き取った内容をその場で弁護士がパソコンで記録していきました。そして、その場で、聞き取り対象者に内容に間違いがないかを確認してもらったうえで署名してもらい、証拠を残しました。この際、署名捺印してもらっていても、後に紛争化したときに「ちゃんと内容を確認せずに署名してしまった」と主張されることを防ぐために、「内容は読み飛ばさずにしっかり確認したうえで署名捺印してください。誤っている点や修正すべき点があればその旨を告げてください。」と伝えた上で署名捺印してもらうことが重要です。本件では、5分ほど時間を取って内容を確認してもらったうえで、特に修正点もなくすんなり署名捺印してもらえました。

 

3,物的証拠を確認する

これらの聞き取り調査と並行して、暴力を受けていたことが明らかとなる物的証拠の収集も行います。本件では、被害社員が、暴力を受けた際に軽いけがを負い、そのけがについての病院の診断書があったため、この診断書を物的証拠として確保することができました。

 

(2)暴力行為の認定について

 

調査の結果、被害社員は暴力行為を受けたと供述する一方、暴力社員は暴力行為を行ったことを一部否定しており、言い分が異なっている部分がありました。そのため、本当に被害社員が主張するような暴力行為があったのかどうかについて、他の証拠との整合性を検討して判断しました。

具体的には、目撃者複数名に聞き取りを行っていたところ、目撃者全員が暴力社員が暴力を行っているところを目撃したと供述しており、これらの供述は被害社員の供述と一致するものでした。また、被害社員のけがの診断書がありましたが、これも被害社員の供述と一致するものです。さらに、弁護士が被害社員に暴力行為の聞き取りを行った際、被害社員は暴力を受けた際の辛さを理由に涙を流しながらそのときの状況を供述しており、その供述態度は迫真的なものでした。

これらの事情からすると、暴力社員の供述に比べ、被害社員の供述はより信用することができ、また、仮にこの点が訴訟で争いになっても裁判所も同様の判断をするだろうと考えることができました。そのため、暴力社員から被害社員に対する暴力行為があったと認定しました。

 

(3)懲戒処分の手続

 

1,退職勧奨の前に懲戒処分の手続を行うことが妥当と判断

退職勧奨を行うにあたって、対象となる従業員に懲戒処分相当の問題行動がある場合、退職勧奨を行う前に当該問題行動について懲戒処分の手続を経ることが適切です。

退職勧奨を成功させるためには、対象となる従業員が退職することに合意してくれることが必要ですが、相手が自分自身の行動が問題行動であり許されないものであることを明確に自覚していなければ退職に合意してくれる可能性は低くなります。

しかし、問題行動をする従業員は、自身の行動が問題行動であることを明確に自覚していないことが多いです。そのため、懲戒処分を経ることで、会社が懲戒処分を検討するほど状況を問題視しているということを伝え、対象となる従業員に自覚を促すことが重要になります。

本件でも、暴力社員は、暴力行為を何度も繰り返しており、聞き取り調査でも暴力は指導の一環として行ったと主張するなど、暴力が重大な問題であるという自覚が薄かったため、このまま退職に向けた説得をしても、応じない可能性が高いと思われました。そこで、懲戒処分の手続を行うことにしました。

懲戒処分を行うにあたっては、弁明の機会の付与などの適切な手続きを踏んだうえで、問題行動の程度に応じて相当な重さの処分を行う必要があります。弁明の機会の付与というのは、懲戒処分の前に本人に言い分を言う機会を与えるという意味です。本件では、弁護士が、懲戒処分の原因となる事実を具体的に記した上で、弁明があれば提出期限までに弁明書を提出するよう伝える弁明通知書を作成して、暴力社員に交付し、弁明の機会の付与を行いました。

 

2,暴力社員から弁明書が提出される

本件では暴力社員から提出期限内に弁明書の提出がありました。しかし、その内容は、一部の暴力行為を認めたうえで正当な教育的指導であると主張するものでした。当然、指導目的で暴力が正当化されることはありませんので、弁明には理由がないものとして、懲戒処分を行うこととしました。

本件では、暴行によるけがは軽いものでしたが病院で診断書が出ていたことや、暴行は何度も繰り返されていたこと、暴力行為によって従業員から退職者が出ているなど職場秩序が乱されていることなどの事情があり、類似の裁判例の判断なども考慮した結果、懲戒処分は出勤停止が相当であると判断しました。

 

▶参考情報:出勤停止処分についてや、懲戒処分の種類や選択の基準、手続の進め方等については以下で解説していますのでご参照ください。

出勤停止の処分についてわかりやすく解説

懲戒処分とは?種類や選択基準・進め方などを詳しく解説

 

(4)弁護士による退職勧奨の実施

 

1,相手の質問や抵抗への対応を事前に準備

暴力社員に対して懲戒処分の通知を行った後に、弁護士から退職勧奨を行いました。退職勧奨に際しては、相手から「退職勧奨を断ったらどうなるんですか」「1000万円もらわないと辞めません」など様々な質問や抵抗をされることが予想されます。

退職勧奨は、相手に退職してもらうように説得するものですので、そのような質問や抵抗をされたときに説得力のある対応ができなければ、退職してもらうことは難しくなります。

そのため、どのような状況でも説得力のある対応ができるように、相手からの質問などを予想した想定問答集を事前に作成して退職勧奨に臨みました。

 

2,暴力の危険にも備える

本件では、暴力を振るう粗暴な相手であったため、退職するよう話を持ち掛けた場合、暴力社員から暴力を振るわれる可能性もありました。そこで、退職勧奨にあたっては、弁護士、社長に加え、1名の従業員に立ち会ってもらい、複数名で退職勧奨を行うことにし、不測の事態にも十分に対応できるように準備しました。

 

3,退職合意書を準備する

さらに、会社によれば、暴力社員は養う家族が多く、会社を辞めたあとの生活資金の心配をすることが考えられ、単に退職してほしいと伝えても給料をもらえなくなることからすんなり応じない可能性がありました。そこで、退職勧奨にあたっては、退職に応じた場合は会社都合退職扱いとなり、失業保険を有利に受け取ることができることを説明し、また、会社から退職金に給料約3か月分の金額を上乗せして支払うとの条件を提示しました。加えて、退職をする合意が得られた場合には、退職の意思を後で撤回されないよう、直ちに退職する旨や退職の条件が記載された退職合意書にサインしてもらうことが重要です。退職金の額などは話合いに応じて変更される可能性があるため、その部分を空欄にした退職合意書を事前に作成して退職勧奨に臨みました。

 

(5)本件における暴力社員の反応

 

上記のような準備を行って、実際に弁護士から暴力社員に退職してほしい旨を告げたところ、予想に反して相手は落ち着いて話を聞いたうえで、退職することにも概ね合意するとのことでした。しかし、家族もいるので、一旦退職の話は持ち帰ったうえで決断したいと告げられました。

持ち帰って検討すること自体は問題ありませんが、期限を決めずに認めてしまうと、いつまで経っても回答がなされず問題の解決ができなくなるリスクがあります。そのため、週末の正午までを期限に設定したうえで、期限までに回答するように求めました。結果として、期限までに退職する旨の回答が得られ、その場で退職合意書にサインをしてもらうことに成功しました。

 

6,解決結果におけるまとめ

 

本件では、会社が長年手を焼いてきた粗暴な従業員であり、扶養家族がいたこともあって、当初は、合意によって退職してもらうことは難しいとも思われました。しかし、退職勧奨の前に弁護士が関与して暴力行為についての社内調査と懲戒処分の手続を行い、会社の毅然とした態度を示す工夫をしたことで、合意によって退職してもらうことができました。

このように、社内での暴力行為を原因として退職勧奨を行ったり、解雇を行う場合には、暴力行為についてしっかり調査してそれを証拠化したうえで、懲戒処分の手続を経ることがポイントになります。早く辞めさせたいからといって、社内調査や懲戒処分を経ないまま進めようとすると、退職の合意を得ることができず失敗することになりがちですし、解雇した場合も暴力行為についての証拠が不十分となり敗訴してしまう危険があります。

社内暴力問題への対応についてお困りの場合には、できるだけ早く弁護士にご相談ください。また、咲くやこの花法律事務所の問題社員対応に強い弁護士へのご相談については、以下でサポート内容や弁護士費用をご案内しています。あわせてご参照ください。

 

 

7,咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士へのお問い合わせ方法

数々の実績と豊富な知識のある弁護士がサポート!「labor-problemに強い弁護士」によるサポート内容について詳しくはこちら

 

咲くやこの花法律事務所の労働問題トラブルに強い弁護士への今すぐのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

8,【関連情報】問題社員対応の事例に関連した解決事例

今回は、「社内で暴力をふるう社員について弁護士が調査して暴力行為を認定して退職させた解決事例」について、ご紹介しました。社内で暴力をふるう社員など問題社員対応に関する解決事例は、以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。

 

パワハラを繰り返す社員を解雇したところ、不当解雇であると主張されたが、弁護士が交渉して退職合意をし、訴訟回避した事例

歯科医院で勤務態度が著しく不良な問題職員の指導をサポートした事例

退職勧奨を一度断った能力不足の看護師に対して弁護士が支援して指導を継続し退職合意に至った事例

成績・協調性に問題がある従業員を解雇したところ、従業員側弁護士から不当解雇の主張があったが、交渉により金銭支払いなしで退職による解決をした事例

遅刻を繰り返し、業務の指示に従わない問題社員を弁護士の退職勧奨により退職させた成功事例

業務に支障を生じさせるようになった従業員について、弁護士が介入して規律をただし、退職をしてもらった事例

 

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    労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式 作成ハンドブック

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2023年11月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:1280ページ
    価格:9,680円


    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2021年10月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
    価格:3,080円


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