今回の解決事例で書かれている内容(目次)
本件は、小売業者が退職者(商品の配達を担当していたドライバー)から、在職中の未払い残業代を請求された事案です。
このドライバーは、会社に対し、退職前にも未払い残業代の請求をしていました。
会社は、このとき、紛争が大きくなる前に解決しようと考え、ドライバーの請求してきた金額を支払いました。しかし、ドライバーは、このとき受け取った金銭は退職金であると主張して、退職からしばらくたった後で再度、748万円の残業代を請求したという事案です。
弁護士が、「退職時に支払った金銭は残業代の支払いであること」、「ドライバーの主張する残業時間が長すぎること」、「在職中に支給されていた早出手当は残業代の支払いでありその分減額すべきこと」などを主張しました。
そして、妥当な残業代になるように交渉し、230万円まで減額して解決できました。
本件では、次の3つが主な争点でした。
各争点についての会社とドライバーの主張は次のようなものでした。
ドライバー:
退職時に受け取った金銭は退職金であり残業代は支払われていない。
会社:
退職時に支払った金銭により在職中の未払い残業代問題は解決済み。
ドライバー:
賃金の支払われていない残業時間が3200時間以上ある。
会社:
労働時間の主張の中に休憩時間が多く含まれており、実際の労働時間はもっと短い。
ドライバー:
早出手当は就業規則に規定されておらず、残業代の支払いではない。
会社:
在職中に早出手当を毎月支給しており、その分は残業代の計算から差し引くべきである。
ここでは、本件に関する担当弁護士による見解をご説明します。
前述のとおり会社は退職時にドライバーから請求されて金銭を支払っていました。
しかし、大変残念なことに、これが残業代の支払いであることを示す書類は作成されていませんでした。そのため、ドライバーはこの金銭は残業代の支払いではなく退職金の支払いであると主張しました。
会社からご相談を受け、弁護士が会社の就業規則を確認したところ、退職金の規定はありませんでした。また、過去に会社から、退職者に退職金を支払った例もありませんでした。
これらの事情から、書面は残っていなくても、支払った金銭が残業代に充当されることは裁判でも認められると考えられました。
ただし、この退職時の金銭の支払いについて書面が作成されておらず、弁護士が会社から聞き取ったドライバーの態度も金銭の支払いによりすべての紛争解決に合意したと明確には言い切れないものでした。
これらのことから、退職時の支払いは、会社が一方的にこれで解決だと信じて金銭を支払っただけであり、この支払いですべてのトラブルを一切解決したとするのは無理があると考えられました。
そこで、弁護士としては、会社と相談のうえ、法律上の残業代の計算に基づき追加支払いの交渉に応じざるを得ないものの、退職時に支払った金銭は退職金ではなく残業代であることを主張して、その分支払額を減額できるように交渉する方針をとりました。
ドライバーの仕事は、会社から商品を積んだ車で出発し、客先を順次訪問して配達が終わったら会社に戻るというものでした。
業務中の大半を外回りがしめていたため、毎日の客先とその訪問時刻について日報を会社に提出していました。ドライバーは、この日報を元に、最初の訪問先の訪問時刻の前に自分で始業時刻を追加し、最後の訪問先の訪問時刻のあとに終業時刻を追記した資料により労働時間を計算していました。
それにより、残業代がはらわれていない残業時間を3200時間以上と主張していました。
しかし、ドライバーが客先への配達中に車をとめて休憩している姿が別の社員により何度か目撃されていました。この時間は会社から指示された業務を行っていないことになりますので労働時間にあたりません。そこで、弁護士から会社に依頼して、ドライバーの配送ルートをもとに標準的な配達時間を出してもらいました。それをもとに計算した残業時間はドライバーの主張の約3分の1になりました。
この計算結果をもとに、弁護士が、労働時間についても従業員の主張の時間数よりも相当程度割り引いて計算するべきだということを主張して交渉しました。
弁護士が、会社からドライバーに支払っていた給与の明細を確認したところ、基本給の他に各種手当が支給されていました。
その中の早出手当という名称の手当は、午前7時以前に出勤した場合に1日あたり1500円を支給するものでした。これは、会社が所定労働時間の開始時刻9時より早く出勤したこと対して払っていた手当でした。
つまり、始業時刻前の残業に対する手当でした。
しかし、会社の就業規則や雇用契約書には早出手当の定義はなく、7時以前に出勤した場合に支払われるとの説明が口頭でされていただけでした。
このように就業規則や雇用契約書に不備があるケースでは、会社側としては残業代のつもりで払っていたとしても裁判になれば残業代の支払いと認められないことが多いのが実情です。
今回も、裁判になれば、早出手当は残業代の支払いと認められない可能性が高いと思われましたが、弁護士としては、会社で早出手当を支払っていた以上、その分は残業代から差し引かれるべきだということを主張して交渉しました。
前記3つの争点の他に、弁護士がドライバーの主張する残業時間の計算を確認したところ、計算が不適切なところが多数見つかりました。
例えば、会社では、月曜から土曜まで、毎日6時間40分を所定労働時間とし、週の労働時間を40時間としていました。
しかし、ドライバーは、土曜日を休日扱いとし、土曜日の労働時間はすべて割増賃金の必要な残業時間であるとして計算していました。
そこで、弁護士が、会社の就業規則を根拠に、土曜日の所定労働時間内の労働は残業代から除くべきことを主張して交渉しました。
弁護士が、前記のとおり、交渉した結果、748万円の請求に対して、230万円にまで減額して問題をすべて解決とするという和解契約を締結することができました。
依頼から解決まで約2カ月でした。
本件では、会社は、退職時に未払い残業代に関して、ドライバーから請求された金額を支払ったことにより解決したと考えていました。
しかし、金銭の支払いに際して、これですべての問題を解決とするという確認文書をとらなかったため、再度請求を受けて紛争が蒸し返された事案でした。
会社としては要求された金銭を支払ったので解決したと考えていても、相手方はそのように考えていない場合があります。
再度紛争となることを防ぐためには、金銭を支払う場合は、必ず合意内容を和解契約書にして文書化しておくことが重要です。
本件では、早出手当について就業規則や雇用契約書に記載がなく、この点が会社の弱点となってしまいました。
早出手当のような残業代に相当する手当(固定残業代)を支給する場合は、それが残業代として支払われるものであることを就業規則や雇用契約書に規定しておくことが重要です。
固定残業代制度についてはトラブルが頻発し、会社側敗訴事例が多数出ています。
会社としては残業代として支払っているつもりでも、あとで裁判になれば残業代の支払いと認められないケースが多く、要注意です。このようなトラブルを招かないためには、固定残業代制度の設計や就業規則での定め方が非常に重要になります。
固定残業代制度については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
▶参考情報:固定残業代制度(みなし残業代)の導入時の注意点!
今回のケースでは、裁判になる前に会社から弁護士に交渉を依頼したことが短期決着や請求額の減額に成功した要因になりました。
本件が裁判に発展してれば、このような減額は困難であったうえ、解決までに1年以上の長い期間が必要になったと思われます。
残業代その他従業員とのトラブルについてお困りの会社は、ぜひ早めに咲くやこの花法律事務所にご相談下さい。
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今回の解説実績は、「配達ドライバーの残業代トラブルで、748万円の請求を弁護士が230万円に減額した成功事例」についてご紹介しました。
残業代トラブルは従業員を雇用している企業にとっては、どの企業も発生する可能性があります。
そのため、以下では今回ご紹介してきた解決実績と合わせて、残業代トラブルに関するお役立ち情報を以下でまとめておきますので、合わせてご覧下さい。
▶従業員から未払い残業代請求された際の会社側の反論方法を弁護士が解説
▶固定残業代制度(みなし残業代)の導入時の3つの注意点!トラブル急増中です