今回の解決事例で書かれている内容(目次)
「建設業」の事例です。
本件は、建設会社で現場の責任者の立場にあった従業員が、下請業者への発注を決定する立場にあることを悪用して、下請業者に自宅建築工事を無償又は格安で請け負わせる不正を行っていた事案です。
会社はこの不正を知り、従業員に問いただしましたが、反省もなく当然の特権と考えているとの態度でした。
そのため、会社はこの従業員を懲戒解雇処分としました。
さらに、この従業員は下請業者にさせた自宅建築工事の代金を事実上踏み倒していました。
これについては、会社の判断で、下請業者から工事代金の請求権を買い取ったうえで、弁護士からこの従業員に請求をし、約200万円の支払を得ることができました。
本件では、従業員の不正行為が発覚した時点で、咲くやこの花法律事務所にご相談いただき、懲戒解雇処分から、債権回収までの一連の対応、交渉について、弁護士にご依頼いただきました。
本件では、不正行為の発覚直後からご依頼いただいたため、十分な準備をすることができました。
従業員は、言葉を濁して言い逃れをしていましたが最終的には不正事実を認めました。
しかし反省の姿勢もないため、懲戒解雇処分としました。
さらに、この従業員が事実上踏み倒していた自宅工事の代金についても、契約書などの資料がなく苦労がありましたが、交渉の結果、約200万円を回収することができました。
以下では、本件に関する問題解決における課題について解説いたします。
従業員が不正を行った場合、社内秩序を保つためにも普通解雇ではなく懲戒解雇をしたいとの相談をよく受けます。
しかし、懲戒解雇は普通解雇と異なり「罰として解雇する」ものであり、普通解雇に比べて厳しい処分といえます。そのため、法律上、有効に懲戒解雇するためには、厳しい要件を満たすことが求められます。
具体的には、就業規則に懲戒解雇事由が規定されていること、当人の不正行為が就業規則に規定された懲戒解雇事由に該当すること、不正が重大であり懲戒解雇処分が重すぎないこと、懲戒解雇処分を行う手続が適正であることなどが求められます。
本件でも、法律上、有効に懲戒解雇処分をすることができるかが問題となりました。
幸い、本件では会社が具体的な行動をとる前から咲くやこの花法律事務所にご相談いただいたので、本人への処分を行う前に、十分な調査、準備をして手続きを進めることができました。
懲戒解雇処分が認められるかどうかを弁護士が検討し、最終的に懲戒解雇処分を行うことを決断し、実行しました。
懲戒解雇処分後、この従業員が事実上踏み倒していた下請業者への自宅工事代金支払いについても放置すべきではないと判断し、できる限り、本人に支払をさせることを目指しました。
本人は自宅建築工事に関して20を超える下請業者に参加させていましたが、多くの業者について、工事請負契約書の取り交わしはもちろん、見積書すら発行されていない状態でした。
各下請業者は、従業員に嫌われると、会社から下請工事を発注してもらえなくなると思い、従業員に対して書類の取り交わしなどを強く主張できない状況にあったためです。
このような事情から、具体的な工事代金が未確定であり、従業員への請求額をどのように算定するかが問題になりました。
ここからは、担当弁護士の見解についてご説明していきます。
上述したように、懲戒解雇処分をする場合は法律上有効とされる要件が厳しく、事前に十分に検討をして手順を踏んで進めていく必要があります。
安易に懲戒解雇をすると、本来は有効に懲戒解雇処分できる場面でも、手続の不備や証拠の不十分により、不当解雇であるとして相手に反論する余地を与えてしまうことになりかねません。
不当解雇については、以下の記事で解説していますのであわせてご覧ください。
本件では、従業員が不正行為をしているとの関係者からの証言はありましたが、最初から決定的な証拠があったわけではありませんでした。
この状態で従業員を問い詰めても、言い逃れをされてしまいますし、それでもそのまま処分をすると十分な根拠もなくされた処分であるとして、不当解雇と判断されてしまいます。
そこで、まずは詳細な事実関係を確認するため、関係者から聴きとりを行うことにしました。
具体的には、弁護士が、従業員の当時の部下や、工事に参加していた下請業者数社と面談して聴き取りを行いました。
そして、いつ頃から自宅建築工事を開始し、どれくらいの業者が参加したのか、従業員が各業者に対してどのように自宅工事を請け負うよう持ち掛けたのか、などの一連の事実関係を細かく確認しました。
このような聴き取りと並行して、弁護士から会社に依頼して、聴き取りで確認した事実関係を裏付ける証拠を集めていきました。
例えば、従業員の自宅の不動産登記簿謄本や、従業員と各業者間のメール履歴などの資料を取り付けてもらいました。
不正行為について会社が調査していることを知られてしまうと、本人に不正の証拠を隠されたり、破棄されたりしてしまいます。
また、例えば関係者に不正をばらさないようにと口止めしたり、口裏合わせをされたりしてしまう恐れがあります。
上述の通り、懲戒解雇処分が有効とされるには厳しい要件があり、不正の証拠が不十分だと当然、懲戒解雇処分が無効とされてしまいます。
そのため、焦らず、慎重に、かつ本人に知られないように調査をしなければなりません。
本件でも、会社が弁護士と相談をしていると知られるだけでも警戒されてしまう恐れがあったので、当初は会社と弁護士間の連絡方法にも気を配りました。
調査をしていることを知っている従業員もごく一部の者に限定するようにしました。
このように慎重に調査をして十分な証拠を集めるようにしました。
十分な調査を終えた後、従業員の言い分も確認するために面談を行いました。
懲戒処分が有効となる要件の1つとして、適切な手続きを踏んでいることが求められます。
この適切な手続きの1つが「弁明の機会を与えること」です。すなわち、本人に釈明の機会を与えて、その言い分も確認する必要があります。
面談当日は、弁護士が立会い、本人が言い逃れをする可能性も考慮して事前に集めた証拠資料なども準備して面談に臨みました。
弁護士による追及の結果、従業員は、最終的には会社の取引先に、通常ではあり得ないような低価格または無償で自宅工事を依頼したことを認めました。
ただ、それについて全く反省はせず、立場上、当然の特権と思っていたなどと開き直る態度をとりました。
そのため、会社は不正行為について反省の意思なく、改善も見込めないとしてその場で、従業員を懲戒解雇処分としました。
上述の通り、従業員の自宅建築工事については、契約書の取り交わし、見積書の提示などができされていませんでした。
このような場合、通常は工事代金の金額の合意ができていないとして、請求して回収することが難しいと言えます。
しかし、本件では、自宅建築工事が実施されていることは確かであり、その実施内容も各業者が把握していました。
弁護士としては、工事の事実がある以上、工事内容に照らして平均的な金額であれば請求可能と判断し、各事業者に改めて見積もりを作成してもらい、その金額で請求を行いました。
結果、請求額の一部ではありますが約200万円の支払いを得ることができました。
今回のケースでは、社内秩序を維持するためにも、普通解雇ではなく法律的に厳しい要件のある懲戒解雇処分を行うことが会社の希望でした。
懲戒解雇処分が有効か否かについては裁判で争わないと結論がでないものではありますが、法律的にも有効とされるように、適切に行う必要があります。
ただ、懲戒解雇処分を会社だけで適切に進めることはかなり難しいのが実情です。事実関係の調査、それを裏付ける証拠をそろえることなど、専門的な知識をもつ弁護士と協力して進める必要があります。
今回は、手続きの最初から弁護士が参加していたので、法律の要件を意識した進行をすることができました。
従業員の不正行為にお悩みの場合、できる限り早期に専門家である弁護士に相談することが大切です。ぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
咲くやこの花法律事務所の問題社員対応に強い弁護士へのご相談については以下のページをご参照ください。
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