今回の解決事例で書かれている内容(目次)
「製造業」の事例です。
本件は、横領の疑いがある従業員に対する損害賠償請求についてご相談いただいた事案です。
20年ほど勤務している財務部長(以下、「従業員」といいます)が数年間にわたり1000万円以上の横領をしている疑いがあるとのことで、調査の進め方や回収方法についてご相談いただきました。
不自然な内容の領収書が多数あることが判明し、横領の手口としては、この従業員が会社経費で私的な物品を購入しているものと推測されました。
また、社用車の点検代や修理代等にも不自然な点があり、こちらも横領に関係があるのではないかと推測されました。
咲くやこの花法律事務所がご依頼を受け、調査した結果、会社経費で私的な物品を購入していることの確実な証拠をつかむことが出来ました。
また、社用車の修理代等の名目で、従業員の本人の車両を修理していること及び新車を購入していることが判明し、その確実な証拠をつかむことが出来ました。
被害額は総額6000万円以上にのぼりました。
横領の証拠をもとに、弁護士が面談を行い、従業員に横領したことを認めさせることが出来ました。その上で、従業員と支払合意書を取り交わし、さらに公正証書にて返済を誓約させることが出来ました。
以下では、本件に関する問題解決における争点について解説いたします。
問題解決における争点は、以下の点でした。
上記の各争点について、以下の点を検討しました。
横領した者に対し、横領したかどうかを聞いても、「知らない」や「分からない」といった弁解をされる可能性があります。
そのような弁解をされた場合にでも、そのような弁解が不自然であって、「知らないはずはありませんね」や「分からないはずはありませんね」と言えるだけの証拠を集めることが重要です。
本事案では、領収書を使った横領であることが推測されました。そのため、弁護士がこの従業員に対する損害賠償請求について会社からの依頼を受けたうえで、領収書の発行者(家電量販店、スーパーマーケット、スポーツ用品店などでした。)に、弁護士法23条の2に基づく照会(弁護士会照会)を行うことで、調査をしました。
なお、弁護士会照会とは、弁護士の申請を受けて、弁護士会が官公署、企業などに事実を問い合わせる照会制度で、弁護士のみが利用できる制度です。弁護士法第23条の2に基づくものであることから、「23条照会」とも呼ばれます。
具体的には、家電量販店などの各社に対して、購入した物品の内訳(商品名及び商品ごとの金額)を開示するように求めました。
これは、購入した商品が分かれば、商品自体から会社の業務と無関係のものであると説明することが出来る可能性が高いと判断したためでした。
この弁護士会照会の結果、従業員が購入していたのは、テレビ、ゲーム機、電子ギフト券、衣類、日用品、食料品とさまざまで、いずれも業務に無関係なものでした。
会社経費で私的な物品を購入していることの確実な証拠をつかむことが出来ました。
この被害額だけで、3000万円以上になっていました。
また、社用車の点検代や修理代等が不自然に高額であり、修理や点検の回数が不自然に多いことについては、修理や点検を行ったとされるディーラーに照会を行いました。
具体的には、ディーラーに対し、ディーラーが発行した請求書を示して、どの車両の、どの箇所を点検したのか又はどの箇所をどのように修理したのか等の詳細が分かる書類の提出を求めました。
そうすると、社用車以外の車両についての修理代や会社に存在しない新車の購入が判明しました。
この社用車以外の車両や新車について、所有者を確認することとしました。具体的には、陸運局や軽自動車検査協会に対して、弁護士会照会を行い、それらの車両の車検証を開示することを求めました。
車検証の開示を受けて、所有者を確認すると、従業員の名前で登録されているものや一旦会社名で登録された後に転売されているものであることが判明しました。
その結果、従業員が、自身の車両の修理代等を会社経費で精算していたこと及び会社に無許可で新車を数台購入して転売していることの確実な証拠をつかむことが出来ました。
なお、この新車の転売については、従業員が転売代金を自分のものにしている可能性が高いと推測されました。
以上の調査の結果として、総額で6000万円もの被害金額が明らかになりました。
証拠を収集した後、従業員と面談を行いました。プライバシーに配慮して、個室で面談を実施しました。
面談時には、弁護士が同席をして、弁護士が主導して話をしていきました。
証拠があることを従業員に知らせるために、証拠の一部を目の前に置いておきました。
面談では、まず、「何か思い当たる点が無いか」を確認しました。
「横領していないか」とストレートに聞くと、否定される可能性があり、一旦否定されると、認めさせることが難しくなることがあります。
そのため、あえて、最初はオープンクエスチョンを行い、「横領を気付かれたかもしれない」と思わせることが重要です。
その後、証拠があることや証拠の内容を伝えた上で、横領したかどうかを確認していくと、横領したことを認め始めました。従業員が認めた横領金額は、当方が証拠上認識している通りの金額でした。
なお、新車の転売については、転売代金を自分のものにしていることも認めました。
従業員が横領を認めた場合に備えて、横領の手口、横領金額、返済方法、調査への協力、公正証書の作成への協力などを明記した書面を用意しておくことが必要です。
本件の面談の際にもこの書面はあらかじめ用意をしておきました。その上で、従業員が横領を認めたため、この書面に署名押印をもらいました。
横領案件は、証拠収集をしっかりした上で、本人に認めさせることが最も重要なことです。
本人が横領を認めなければ、お金を返してもらうには裁判などの別途の法的対応が必須になります。また、横領の裁判は、立証が困難なことが多く長期化することも珍しくありません。
労力、時間、コストもかかるため、裁判以外の方法で回収を図ることが重要です。
一括返済が困難な場合に、最初にどのくらい回収できるかが重要です。
本件でも、一括返済が出来るような金額ではなかったため、出来る限り最初に回収を図りました。
具体的には、以下の通りです。
このように回収を進めた結果、早い段階で900万円近くを回収することが出来ました。
従業員と面談を重ねて、毎月、どのぐらいの金額なら返済できるのか話しを詰めていき、従業員との間で支払合意書を取り交わしました。
支払合意書には、未払金がいくらで、毎月何日までにいくら支払うのか、支払いが遅れた場合はどうなるのかなどを明記したものです。
なお、分割払いを認める場合は、支払いが遅れた場合に直ちに全額を支払う義務を負うという条項(期限の利益喪失条項と言います。)を入れておくことが必要です。
そうでなければ、仮に支払いが遅れたとしても、即時に全額請求することが出来ず、支払期限を待たないといけなくなってしまうためです。
弁護士が公正証書の文案を作成し、当事者双方が予めその文案を確認した上で、公証人役場で公正証書を作成しました。
公正証書を作成しておけば、万が一支払いが滞ったとしても、裁判をすることなく、財産の差押えなどの強制執行をすることが可能になります。
強制執行のタイミングを逸しないためにも、支払合意書だけでなく、支払合意書に基づく公正証書も作成しておくことが重要です。
なお、差押え(強制執行)については以下で解説していますのでご参照ください。
本件では、あらかじめ弁護士会照会を多数行い、証拠収集に力を入れました。
その後、本人と面談して、収集した証拠に基づいて、横領行為を認めさせることが出来ました。本人には、最終的に総額6000万円を超える金額の横領を認めさせ、支払合意書や公正証書を作成することが出来ました。
横領に関する案件では、証拠の収集が重要です。
証拠を収集できる見込みがあるのであれば、たとえ数カ月間かかるとしても、時間をかけて証拠を収集した方が良いこともあります。
また、弁護士であれば、弁護士法23条の2に基づく照会などの特別の照会方法を使うことが出来るため、スムーズに証拠集めをすることが可能です。
従業員の横領が疑われる場合には、まず弁護士に相談し、証拠収集の段階から関与をしてもらうほうが良いです。
横領の証拠収集や横領された金銭の返済請求については以下の記事で解説していますのでご参照ください。
また、横領に関する詳しい解説や、従業員の業務上横領に強い弁護士への相談は、以下からお願いいたします。
咲くやこの花法律事務所の「労働問題に強い弁護士への相談サービス」への今すぐのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
今回は、「弁護士会照会を活用した調査をもとに6000万円超の横領を自白させ、支払いを誓約させた事例」について、ご紹介しました。
他にも、今回の横領事例に関連した解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。
・弁護士がレジ金横領の証拠を確保し被害全額の回収に成功した事例
・EC通販会社の在庫品の横領事件、横領した取締役からの回収に成功した事例
・横領の疑いがある従業員に対して、弁護士が調査を行って横領行為を認めさせ、退職させた解決事例