今回の解決事例で書かれている内容(目次)
「建築請負業」の事例です。
本件は、相談者が個人の施主から、自宅の新築を中間金約1300万円、合計代金約2600万円で請け負ったが、中間金の支払がなく、咲くやこの花法律事務所にご相談いただきました。
工事請負契約書によれば、工程の半分を終えた段階で施主は中間金を支払う約束になっていました。そのため、相談者の会社は、予定通り工程の半分を終えた段階で、中間金を請求しました。
しかし、施主は、「払うつもりはある」「借入れを受けられそうだ」と言うのみで、一向に支払いませんでした。相談者は対応に困り果て、どうにか支払ってもらう方法はないかと咲くやこの花法律事務所に電話相談の予約をいただきました。
弁護士から施主に対して未払工事代金を請求する内容証明郵便を送り、何度か電話で交渉しました。
粘り強い交渉の結果、まず施主の家族から200万円回収しました。その後、建築中の自宅の敷地を安く買い受けることにより、実質的に未払工事代金全額を回収することに成功しました。
本件で弁護士が取り組んだ対応内容について、順番に解説いたします。
本件では、まず弁護士から施主に対して内容証明郵便を送り、中間金の支払いを求めました。この内容証明郵便には、書面の到達から1週間以内に未払工事代金が支払われなかった場合には訴訟等の手続に進むと記しました。
しかし、期限を過ぎても施主から支払はありませんでした。内容証明郵便を送っても支払わない相手に対しては、民事訴訟を起こすなど法的手段を取ることが通常です。
そして、本件の施主は、ある会社の社長でした。しかし、施主には財産がないことが明らかでした。さらに、相談者は、請負契約を結んだ時に、施主から抵当権の設定を受けるなど担保を取っておらず、連帯保証人もいませんでした。そのため、民事訴訟などの法的手段をとっても、回収できない可能性が高い事案でした。
そこで、担当弁護士は、法的手段を取るよりも、粘り強く交渉を続け任意に支払ってもらうほうが回収の見込みが高いと判断し、相談者にも説明しました。担当弁護士は、相談者の承諾を得て、引き続き交渉することにしました。
債権回収の際にどのような手段を選択するかについては、その事案に応じて臨機応変な判断が必要です。必ずしも民事訴訟がよいとは限りません。以下で民事訴訟による債権回収のメリット・デメリットについて詳しく説明していますのでご参照ください。
施主に資力がないため、今回の事案で交渉により請負代金の支払いを受けるには、施主にお金を借りてもらうか、仕事をして稼いだお金で支払ってもらうしかないと思われました。
ところが、交渉期間中、施主の家族から、施主が病気で入院し、余命数日かもしれないとの知らせを受けました。そうなると、施主からの回収は絶望的とも思われました。
しかし、今回の事案は、相談者としても簡単に回収を諦められるような金額ではありませんでした。
施主は会社を経営しており、家族もいました。施主の会社や家族は、自宅の工事請負契約の当事者ではなく、法的には請負代金の支払義務を負いません。
しかし、担当弁護士としては、施主の会社や家族に支払ってもらうことを目指し、交渉を続けることにしました。
以下では、担当弁護士の見解について解説していきます。
担当弁護士が相談者から依頼を受けた時点では、自宅についての工事請負契約書があるのみで、債務があることを認める書面やメールなどはありませんでした。
法的手段を取るにせよ、交渉を続けるにせよ、相手方が債務の存在を認めていることを記録に残すことが重要です。
本件では幸い、相手方は一貫して債務の存在を認める言動を取っていました。そこで、まずは、中間金の支払義務があることを認めるという「債務確認書」を作成することにしました。
本件では交渉での解決を目指す予定でしたが、後々に訴訟になることもあり得ることを想定し、どの契約の、どの債務の、どの部分について支払義務があることを認めるのか、明確にした「債務確認書」を作成しました。
施主には家族(妻と幼い子ども)がいました。しかし、妻は本件の請負契約の当事者ではなく、連帯保証人にもなっていませんでした。
民法761条は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。」と定めています。
施主が請負契約を結んだ行為が、前述の民法761条の「日常家事債務」に当たれば、妻が請負代金債務について法的に責任を負います。しかし、代金総額約2600万円の自宅新築についての請負契約を結んだことが「日常家事債務」に当たるとは考え難いです。
そのため施主の妻は、法的には義務を負わないと判断せざるをえませんでした。
そこで、施主の妻に、任意に支払ってもらえるよう、説得することにしました。施主とその妻は遠方に居住しており、新型コロナウイルスの感染拡大状況もありました。
そのため、弁護士が直接会って話をすることができませんでした。しかし、幸いなことに、相談者の会社は施主と同じ地域にありました。
担当弁護士は、相談者に対して具体的な交渉の仕方をサポートし、相談者が施主の妻と会って直接話をすることになりました。
交渉の仕方について担当弁護士が依頼者に対して助言したポイント3つ
3つのポイントを踏まえて、最低限伝えるべき内容
その結果、妻から、200万円であれば即日支払うと言ってもらうことができました。
そして、その場で、あらかじめ作成しておいた合意書にサインしてもらうとともに、200万円を振り込んでもらいました。
このように200万円は回収しましたが、まだ1100万円が未払いのまま残っており、これをどう回収するかが問題になりました。
施主には見るべき財産がありませんでした。一方、本件で相談者が建築を進めていた自宅の敷地は、施主の経営する会社の所有地でした。
また、相談者としては、この土地に家屋を建てて売却することができれば、工事代金全額を優に回収できるだけの利益があがる見込みがありました。
そこで、担当弁護士としては、施主の会社の所有する土地を安く譲り受けることができれば、相談者がその上に家屋を建築して敷地と一緒に売却することで、その売却益から実質的に債権を回収できると考えました。
本件では、相談者は、施主の経営する会社が所有する土地に対して法的な権利を主張できる立場にはありませんでした。そこで、施主の妻に対して任意の支払を求めたのと同様、本件の事情を説明し、土地を売却してほしいと伝えました。
そして、施主との交渉の結果、施主の会社から土地を購入することについて合意が成立しました。
担当弁護士が交渉に先立って「売買契約の目的確認書」案を作成しておき、合意が成立した日に「売買契約の目的確認書」を作成しました。
これは、土地の売買契約の際に目的を明確にすることで、売買当事者のトラブルを防ぐことにつながると考えたからでした。
この「売買契約の目的確認書」に記載した内容は次のとおりです。
このような「売買契約の目的確認書」を作成していたことが後で効力を発揮しました。
施主の会社が所有する土地には、会社の債務について銀行の根抵当権が付いていました。
土地の上に家屋を建てる前提として、この根抵当権を抹消する必要がありました。ところが、この根抵当権の債務が約2000万円残っていました。
そこで、相談者は、根抵当権を抹消するために必要な資金を借り入れることとしました。
融資の際、銀行は、貸付けを行う前提として、融資申込者に法的リスクがないかチェックします。本件で、銀行は、相談者が購入した土地の上に建てる建物について、のちに第三者が所有権などの権利を主張してこないか懸念していました。
なぜなら、本件の土地の上に建築途中だった建物の基礎の一部は、相談者が工事を請け負う前に、別の業者が作ったものだったからです。
そこで、担当弁護士は、銀行に対して、銀行が懸念するような問題がないことを説明しました。
前述の「売買契約の目的確認書」には、「相談者が施主の会社から土地を購入した後、その土地とその土地の上に建築する建物を転売する」と書いてありました。
赤文字の部分は、素直に読めば「相談者が建物を建築する」という意味です。
そこで担当弁護士は、銀行に対して、相談者が別の業者から建物の基礎部分の権利を譲り受けていることが前提になっていると説明しました。
銀行は、担当弁護士の説明に納得したようでした。結果として、相談者は、銀行から約2000万円の融資を受けることができ、根抵当権の抹消に成功しました。
これにより、相談者は、施主の会社から土地を安く買い取り、その上に家屋を建てて売却することで、未払いになっていた建築工事代金全額の回収をすることができる見込みとなりました。
相手方から債権を回収することが絶望的に思われた後も、粘り強く交渉を行った結果、法的義務のない者から実質的に未払請負代金債権を回収することができました。
また、施主や施主の家族、施主の会社と合意をするたびに、確認書を作成していたため、根抵当権抹消のための融資を受けることにも成功し、相談者は無事土地を買い受けることができました。
債権回収では、1つの方法にこだわるのではなく、交渉の展開にあわせて臨機応変に対応していく柔軟さが必要です。
債権回収の成功のポイントを以下でまとめていますので、ご参照ください。
また、債権回収については、未払いが始まったらすぐに弁護士に相談することが重要です。
支払期限から時間がたてばたつほど、債務者の財産が失われていき、債権の回収が難しくなっていくためです。
債権の回収は、債務者に資力がのこっているうちに、他の債権者に先んじて回収する必要がある、早い者勝ちの競争であることを常に意識する必要があります。
債権回収について不安があるときは、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
今回の事案のように、工事の請負関係は、施主との債権回収関連のトラブルが非常に多いです。そのため、以下の記事では、工事代金が未払いになった場合の回収方法を詳しく解説していますので、こちらもご参照ください。
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今回は、「資力のない施主と粘り強く交渉して建築工事代金の全額回収に成功した事案」についてご紹介しました。自社で債権回収が発生した際に知っておくべき必要がある基礎知識については、以下のお役立ち情報も参考にしてみてください。
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