債権回収の解決実績

約束通り納品しない仕入先に対して代金返還を求めて裁判手続によることなく全額を回収した事案

約束通り納品しない仕入先に対して代金返還を求めて裁判手続によることなく全額を回収した事案

この解決実績を紹介する弁護士

  • 弁護士  小林 允紀
  • 咲くやこの花法律事務所  弁護士  小林 允紀

    出身地:奈良県生駒市。出身大学:京都大学法学部。主な取扱い分野は、「労務・労働事件(企業側)、債権回収、顧問弁護士業務など」です。
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1,業種の紹介

 

「化粧品卸売」の事例です。

 

2,法律相談から解決までの主な対応手段

 

最初の問い合わせ時は電話相談。その後はZoom等のWeb会議(オンライン)ツールによる打ち合わせで対応。

 

3,事件の概要

 

相談者は化粧品を仕入れて販売する事業者でした。仕入先業者との間で化粧品の仕入取引を行っていましたが、商品が約束どおりに納品されませんでした。そこで、やむなく仕入先業者との間の化粧品取引をキャンセルするに至りました。

もっとも、相談者は、仕入先業者に商品代金全額を前払いで支払っていたため、商品代金全額を返還するよう求めていました。しかし、仕入先業者は、「返すつもりはあるが、今は払えない」などと言うばかりで、一向に代金を返還しませんでした。

さらに、相談者は、卸業者であったため、一連の取引をめぐって販売先との間でもトラブルになっており、仕入先と販売先の双方との交渉を強いられていました。

相談者は、解決の糸口がつかめず、まずは仕入先業者に対する商品代金の返還を弁護士に依頼したいとして咲くやこの花法律事務所にご相談いただきました。

 

4,問題の解決結果

 

弁護士から、相手の仕入先業者に対して内容証明郵便等を送り、支払った商品代金約340万円全額を返還するよう交渉しました。結果として、相手からは3回に分割して商品代金全額を返還してもらうことができました。

 

5,問題解決における争点(弁護士が取り組んだ課題)

 

以下では、問題解決において弁護士が取り組んだ課題について詳しく解説していきます。

 

(1)契約書がなく、LINEのメッセージしかなかったこと

 

相手である仕入先業者は、担当弁護士が受任する前から、商品代金全額を返還する義務を負っていることは認めているようでした。

しかし、相談者と相手とのやりとりはすべてLINEのメッセージと通話によって行われており、契約書はありませんでした。契約書は重要な証拠です。相手が任意にお金を払わない場合、裁判を起こさなければなりませんが、契約書がないと裁判所に勝訴判決をもらうためのハードルが高くなります。

そこで、LINEのメッセージが証拠として十分であるかの検討が必要でした。

 

(2)取締役ではない人物に取締役としての責任を追及することができないか

 

相談者によると、相手の会社の窓口となっている人物は、取締役(社長)ではないものの、あたかも取締役のように会社を取り仕切っているとのことでした。担当弁護士は、相手の会社の登記情報を取り寄せて、取締役の氏名などを確認しましたが、相手の会社の窓口となっている人物は取締役ではありませんでした。

取締役は、会社の取引先などに対して一定の法的義務を負っています。もし取締役の義務違反によって取引先に損害が発生すれば、その取締役は取引先に対して損害賠償義務を負うことになります(会社法429条1項)。この義務は、取締役個人が負う義務であり、会社とは別に取締役個人に対しても損害賠償請求できる可能性があります。

この点、ある人物が取締役(社長)のようにふるまっているだけで、その人物が取締役と同じ義務を負うことになるものではありません。しかし、例外的に、取締役ではない人物にも「事実上の取締役」あるいは「実質的な取締役」としての責任を問うことができる場合があります。

そこで、担当弁護士は、今回のケースがそのような例外的な場合にあたらないかを検討しました。

 

▶参考情報:会社法429条1項

第四百二十九条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

・参照:「会社法」の条文はこちら

 

6,担当弁護士の見解

 

担当した弁護士の見解は、以下のとおりです。

 

(1)LINEのメッセージの検討

 

まず担当弁護士は、相談者からヒアリングを行いました。その上で、相談者からLINEのメッセージのテキストデータを共有してもらい、内容をすべて確認しました。担当弁護士がLINEのメッセージを読んで検討したのは、主に次の2点です。

 

  • ●1.前払い代金の返還を求めるための法的な根拠
  • ●2.「解除」か「解約」か

 

以下で、順番に詳しく解説します。

 

1.前払い代金の返還を求めるための法的な根拠

今回のケースで前払い代金の返還を求めるための法的な根拠は、「契約が解除・解約されたこと」です。

今回のケースのような化粧品の仕入取引は、売買契約(民法555条)にあたります。そして、一度契約を結んで代金を支払った場合に、支払った代金を返還してもらうには、「売買契約が解除・解約された」ことが必要です(民法545条1項、民法703条)。そのため、相談者が相手の仕入先業者に対して前払い代金の返還を求めるためにも、「売買契約が解除・解約された」といえることが必要でした。

 

2. 「解除」か「解約」か

「1.前払い代金の返還を求めるための法的な根拠」でご説明したとおり、「売買契約が解除・解約された」ことが必要です。日常用語的にはあまり区別されませんが、裁判上は、「解除」と「解約」を区別しなければならない場合があります(最高裁判所第三小法廷判決昭和32年12月24日民集11巻14号2322頁等)。そのため、裁判になることも見越して、今回のケースでも「解除」と「解約」を区別して考える必要がありました。

「解除」は、法律や契約で定められた解除事由がある場合に「解除する」という意思表示をすることを意味します(民法540条1項)。解除事由がないのに「キャンセルする」と告げたり、解除事由があっても「解除する」と告げていなかったりすると、「解除」したことにはなりません。

一方で「解約」は、「合意解約」、つまり合意によって契約を解消することを意味する場合が多いです。

今回のケースでは、相談者は、化粧品取引を「キャンセル」したので前払いした代金全額の返還を求めたいとのことでした。しかし、担当弁護士がLINEのメッセージのテキストデータを確認しても、相談者が化粧品取引を「解除」したとはいえない可能性がありました。一方で、LINEのメッセージのやりとりの内容からは、相談者と相手が「合意解約」したとみることは可能でした。

そこで、担当弁護士は、相談者が相手に前払い代金の返還を求める理由を「売買契約を合意解約したこと」であると整理しました。

 

(2)実質的な「取締役」ではないか

 

相談者は、相手の会社に資力がない可能性を懸念していました。そのため、相手の会社がお金を払えない場合には、会社以外の者からもお金を払ってもらいたいと考えていました。

一般に、会社の窓口になっている従業員は、会社の経営責任を負う取締役とは立場が大きく異なります。取締役は経営責任を負う一方で、会社の窓口になっているに過ぎない従業員個人は、経営責任を負わないのが原則です。

しかし、従業員が実質的には会社の取締役と同じような地位にあるのであれば、従業員個人であっても取締役と同じ義務と責任を負う場合があります(会社法429条1項、名古屋地方裁判所判決平成22年5月14日等)。具体的には、ある人物が実質的な経営者として会社財産を管理していたり、他の取締役や従業員から取締役のように扱われていたりするような場合には、「実質的には会社の取締役と同じ」という余地があります。これは、「事実上の取締役の法理」などと呼ばれます。

今回のケースでは、担当弁護士は、相手の会社の窓口になっている人物が会社の100%出資者(株主)であり、かつ会社を実質的に経営しているといった情報を得ることができました。また、その他にも、相手の会社の窓口になっている人物が会社を取り仕切っていることが分かる事情がありました。そこで、担当弁護士は、相手の会社の窓口になっている人物が「実質的には会社の取締役と同じ」であると主張できると考えました。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

「事実上の取締役の法理」とは、正式に取締役として選任されていないのに事実上会社の業務を執行している者について取締役の責任を負わせる際に用いられる法理です。本件では、この法理の適用を主張したことが、円滑な回収ができた要因の1つになりました。

 

(3) 「内容証明郵便」による商品代金返還請求の通知と電話での交渉

 

相手が支払うべきお金を支払おうとしない場合、「通知書」を内容証明郵便で送るのが効果的です。そこで、担当弁護士も、相手の会社に送る「支払督促通知書」を内容証明郵便で送りました。「支払督促通知書」には、前払いした商品代金約340万円全額を返還せよと記載し、相手の会社の窓口になっている人物に対しても、「あなたは実質的に取締役であるので、取締役として登記されていなくても取締役と同じ責任を負う可能性がある」などと記載しました。

さらに、相談者は、販売先業者との紛争も抱えていたことから、早期回収を強く希望していました。また、内容証明郵便の送付は、相手にプレッシャーを与える一定の効果はあるものの、何度も送っていると次第に相手も慣れてきて、効果が薄れてしまいます。そこで、担当弁護士は、内容証明郵便の送付だけでなく、即時に相手とやりとりができる電話でも「任意に支払わない場合には訴訟手続も辞さない」という督促を行うことにしました。

相手は、当初「払わないとは言っていない」「今はお金がない」「裁判でも何でもやってくれ」などと言って商品代金の返還に応じませんでした。しかし、担当弁護士が粘り強く督促したところ、交渉開始から3週間ほど経った時点で、相手から3回に分割して支払うという返済計画の提示がありました。もっとも、実際に返済計画のとおりに返還される保証はありませんでした。そこで、担当弁護士は、確実に支払いが行われるように何度も電話連絡するなどしました。

結果的に、相手からは返済計画どおりに商品代金約340万円全額の支払いを受けることができました。担当弁護士が依頼を受けてから、全額の支払いが完了するまでに要した期間は1か月強でした。

 

▶参考情報:内容証明郵便の送り方については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

内容証明郵便とは?書き方、出し方、効力について弁護士が解説

 

7,解決結果におけるまとめ

 

今回のケースでは、相談者が希望したような、相手の会社以外からの回収も視野に入れつつ、仮差押えや訴訟などの時間と費用のかかる方法によることなく、早期に債権全額の回収をすることができました。

相手にお金を払ってもらうためには、弁護士が作成した内容証明郵便を送ったり、弁護士が相手に直接電話したりするなどして、「このまま払わないでいると大きな法的リスクを負うことになる」と理解させることが重要です。

自社での回収が難しいときは、できるだけ早く弁護士への依頼による対応に切り替えることが、債権回収の確実性を高めます。咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますので、債権回収について不安があるときは、できるだけ早くご相談ください。

 

 

8,咲くやこの花法律事務所の債権回収に関する弁護士への問い合わせ方法

数々の実績と豊富な知識のある弁護士がサポート!「debt-recoveryに強い弁護士」によるサポート内容について詳しくはこちら

 

咲くやこの花法律事務所の債権回収に関する弁護士への相談サービスへの問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

9,【関連情報】この事例に関連した解決実績

 

今回の解決事例は、「約束通り納品しない仕入先に対して代金返還を求めて裁判手続によることなく全額を回収した事案」についてご紹介しました。他にも、今回の事例に関連した債権回収トラブルの解決実績を以下でご紹介しておきますので、参考にご覧ください。

 

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