今回の解決事例で書かれている内容(目次)
本件は、会社内に設置された内部通報窓口に、匿名で支店内のパワハラを告発する内容の文書が郵送され、その対応について会社からご相談をいただいた事例です。
文書を受けて、依頼者は、会社として早急な対処が必要と考えましたが、どのように対処してよいかわからず、咲くやこの花法律事務所にご相談にお越しになりました。
依頼者が調査チームを作り、弁護士のアドバイスのもと、支店の社員全員に、内部通報の調査である点を秘してアンケート及び面談を実施し、パワハラ行為を行っていた加害社員を割り出しました。
その後、当該加害社員にパワハラ行為を認めさせ、他支店への転勤及び同意による降格と減給を行いました。
本件で弁護士が取り組んだ対応内容について、以下で詳しく解説いたします。
内部通報の書面には、支店名の記載はあったものの、通報者の氏名も、パワハラを行っている者の氏名も記載されていませんでした。
そのため、依頼者は、誰に対して、どのような調査を実施するかに頭を悩ませており、弁護士から以下の点をアドバイスしました。
内部通報窓口に通報された情報には、徹底した秘密保持が要求されます。通報内容の漏洩が発生すると、従業員の内部通報制度への信頼を失う恐れがあります。
そのため、調査チームを結成し、その内部のみで通報内容や調査結果を共有し、内部通報があったことを含めて他の従業員には一切の情報を漏らさないようアドバイスしました。
依頼者の場合、取締役や内部通報窓口担当部署の従業員5名程度で調査チームを結成し、このチームと弁護士とが連絡を取り合うことで今後の調査方針や、処分方針を決めていきました。
内部通報の秘密管理を徹底するためには、調査の実施が内部通報をきっかけとするものであることも秘密とする必要があります。
この点、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン(PDF)」では、調査の端緒が内部通報であることを関係者に認識させないように以下のような工夫を講じるべきと定められています。
実際の対応では、社内の体制や、社会情勢、内部通報の内容等を加味してどのように調査を行うかを個別に検討することになります。
依頼者の場合、内部通報の内容が労働基準法違反や、パワハラに該当する行為を告発する内容でした。
そして、当時、「働き方改革関連法」の施行や、パワハラ防止法とも呼ばれた「労働施策総合推進法」の改正が社会で大きな話題となっていました。
そのため、これらの法改正について従業員の認識を問う内容のアンケートを社内で実施し、それと関連させる形で支店内のパワハラの実態調査を行うことで、内部通報による調査であることがわからない形で調査を進めることをアドバイスしました。
なお、本件では、調査チームのメンバーはいずれも、内部通報窓口の専任の担当者ではありませんでした。
内部通報窓口専任の担当者が調査を行うことは、調査対象者に内部通報があったことを推測させることになりますので注意が必要です。
アンケートの実施にあたって、アンケートの回答について匿名での回答も可能とすることを弁護士から助言しました。
具体的な方法としては、匿名性の確保や、集計のしやすさなどから、WEBアンケートで実施することとし、WEBアンケートのURLを支店の社員全員にメール送信しました。
このようなアンケートを行う際は、従業員に安心して記載してもらい、できるだけ具体的で有効な回答を得るために以下の点をアナウンスすることをおすすめします。
アンケート結果を確認したところ、内部通報でパワハラ行為等を行っていた加害社員を特定することができました。
そのうえ、アンケート結果から、その加害社員には、内部通報で告発された行為以外にも多数の問題行為があったことが明らかになりました。
もっとも、重要な情報が記載されていたアンケートはすべて匿名でした。
アンケートではハラスメントがある場合は、その日時や場所を具体的に記載するように依頼していましたが、これらの情報が抜け落ちている回答がほとんどでした。
したがって、加害社員に対する懲戒処分やその他の処分を検討するに際しては、更に具体的な情報を収集する必要があり、そのために支店内の全社員に対して面談を行うこととしました。
調査のための面談を行うにあたっては、その結果を証拠化するということを意識しながら進める必要があります。
以下の点が重要です。
依頼者の場合は調査チームが面談を行いました。
この依頼者に対しては、ハラスメントの申告等があった際に、会社として具体的にどのような調査を行うべきかについて、以前に担当弁護士がセミナーを行っていました。
調査チームはセミナー参加者が多数でしたので、上記のような注意点を再度口頭で説明し、セミナー資料を見返すようにアドバイスをするのみで、スムーズに適切な面談を行うことができました。
上記の面談の結果、加害社員が行っていた行為の具体的内容が明らかになりました。
これらをもとに加害社員本人への聴取も行い、明らかになった行為がパワハラに当たるかどうかについて、弁護士の専門的な判断をすることになります。
本件では加害社員が部下に行っていた暴言がパワーハラスメントに該当するかどうかが問題となりました。
暴言がパワハラにあたるかどうかの主な判断基準は、以下の通りです。
特に部下のミスを原因とする叱責等は判断が難しく、過去の裁判例も踏まえた弁護士による専門的な判断が必要になります。
本件では、部下の業務改善につながるとはおよそ考えにくいような暴言が繰り返され、人格的な攻撃を含むものでしたので、弁護士は、過去の判例に照らしてパワーハラスメントに該当すると判断しました。
なお、パワハラに関する判断基準については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
加害社員の言動がパワハラに該当する場合、その内容に応じて、会社として適切な措置をとる義務があります。
例えば以下のような措置が考えられます。
このうち、特に、懲戒処分をするにあたっては、就業規則が従業員に周知されており、就業規則にハラスメントについての懲戒処分の規定があることを確認したうえで、以下の事項を総合考慮して懲戒処分内容を検討します。
依頼者の場合、パワハラ行為の内容や被害者の数などからすると当該加害社員には重めの懲戒処分が妥当な事案でした。
もっとも、支店従業員の意見や、真摯な反省等の諸事情及び弁護士の意見も参考にしたうえで、配置転換と降格、及びそれに伴う減給をするにとどめました。
本件では、加害社員は、特に否定することもなくパワハラの事実を認め、減給等にも素直に応じて合意書を締結することができました。
以下では、担当弁護士の方針について解説していきます。
内部通報があった場合、そもそも調査を行うべきか否かの判断や、調査を行うとして秘密を保持したままどのような調査をするか、調査結果が出た後にどのような措置を取るかについて、弁護士の専門的な判断が必要です。
内部通報があった場面でこれらの対処が遅れると、通報者が弁護士や労基署等の行政機関、マスコミなどの外部機関に駆け込むおそれがあります。
その場合、企業の自浄作用を果たすための内部通報制度が機能していないことになり、信用を失う結果となります。
内部通報に対して会社が迅速かつ適切な調査を行い、また調査後に適切な措置をとるためには、日ごろから内部通報があった場合の対応についていつでも弁護士に相談できる態勢を整えておくことが重要です。
今回の依頼者は、担当弁護士のアドバイスのもと、パワハラの調査を自社で行いました。
厚生労働省のいわゆるパワハラ防止指針では、内部通報に限らず、従業員からハラスメント被害の申し出があった場合には、被害者、加害者、関係者からの聴き取りを行うことなどの社内調査を企業に義務付けています。
ハラスメントの調査にあたっても、まずは何から始めるべきなのか、何を聴き取り、どのように記録に残すのかについて専門的なノウハウが必要です。
また、本件のような従業員全員の聴き取りは会社にとって大変な負担です。弁護士の適切なアドバイスのもと、先を見通し、正しいと思える方法で行わければ、やり遂げることはできません。
今回の依頼者のように、弁護士からのアドバイスを受けながら、調査を行えば、正しいと思える方法で、自社で適切な調査をやり遂げることができます。
本件では、内部通報窓口に書面が郵送されてきた当日にご相談をいただけたことで、会社として迅速かつ適切な対処をとることができました。
加害社員を他の支店に転勤させたことで、支店の正常な運営を取り戻し、加害社員も真摯に反省して転勤先で現状問題を起こすことなく、業務に従事しています。
このような結果を得ることができたのも、弁護士のアドバイスのもと、依頼者が真剣に問題を解決するために従業員と向き合い、手間が大きい社員への聴き取りやその記録化を行って、加害社員と話し合った結果だと思います。
最終的には、「大変ありがとうございました。」とのお言葉をいただき、アドバイスをさせていただきながら解決を迎えることができて、本当に良かったと思います。
なお、内部通報制度やハラスメント相談窓口については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
また、内部通報制度についての咲くやこの花法律事務所のサポート内容については以下をご参照ください。
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著者:弁護士 西川 暢春
発売日:2021年10月19日
出版社:株式会社日本法令
ページ数:416ページ
価格:3,080円