今回の解決事例で書かれている内容(目次)
本件は、自主退職した従業員から、退職後に不当解雇と主張され、解雇予告手当と残業代の請求がされた事案です。
この従業員は在職中から会社に対する不満を述べており、退職前には直接話し合う場も設けました。しかし、一方的な主張を繰り返すばかりでまったく話し合いになりませんでした。最終的には会社についていくことはできないと言って、自ら退職しました。
その後、この従業員は「不当解雇された、未払い残業代がある」と言って、会社に解雇予告手当と残業代の請求をしてきました。
上記の通り自ら退職したのであり解雇をした事実はありません。まったくの言いがかりといえる請求でした。
▶参考情報2:「残業代の請求」について詳しくはこちら
会社からは、この従業員が退職する前から弁護士に相談してもらっていました。
退職前の話合いへの立会い、退職後の交渉、民事調停、裁判と長期にわたって弁護士が関わりました。
この従業員は、交渉、調停でも自己の主張を一方的に繰り返すだけであり、まったく話合いになりませんでした。最終的に裁判まで起こしてきましたが、弁護士が証拠を持って会社の主張を行い、無事に全面勝訴して解決にいたりました。
以下では、本事案の争点を解説していきます。
元従業員は退職前の話し合いの時点から話が通じず一方的に自らの言い分を繰り返している状況でした。
最終的に自ら退職の意向を示しましたが、会社への不満を述べ続け、会社のせいで辞めなければならないなどの発言もしていました。そのため、会社が退職届の提出を求めても、この従業員は拒否しました。
このような状況であったため、後々、「会社から解雇された」などとクレームをつけてきてもめることが予想できました。
そのため、退職の経緯を証拠にして残しておくことが重要であると考え、弁護士から会社に対してそのようにアドバイスしました。
具体的には、退職届の提出を書面で求め、かつそこに退職の経緯も記載しておくよう助言しました。これがあれば、退職届が提出されなくても、退職に至る経緯を証拠として残しておくことができるからです。
従業員は書面には従えないと言ってそのまま退職していきました。会社は自主退職として処理を進めましたが、心配していた通り、その後、解雇されたとして解雇予告手当を請求してきました。
このように、自分で退職した従業員から、後になって、「不当に解雇された」などといわれのない請求をされた場合、証拠がなければ明確な反論ができず相手につけ入るスキを与えてしまいます。
従業員が退職する時は必ず退職届を提出させることがまずは重要です。また、退職届の提出が拒否されるような場合は、従業員に対して、これまでの経緯を記載した書面の提出を求めるなどして、退職に至る経緯を証拠化しておくことが大切です。
この従業員は、会社で送迎業務を担当する運転手でした。
残業代については、送迎と送迎の間の手待ち時間が労働時間に該当するかが争点の1つになりました。
もし、送迎と送迎の間の手待ち時間が労働時間にあたると判断されてしまうと、労働時間が週40時間を超えてしまい、未払い残業代が発生することになります。
会社側としては、「送迎と送迎の間の手待ち時間は労働時間に該当しない」と主張できるかを検討する必要がありました。
労働時間に当たるかどうかは様々な事情を総合考慮して判断されます。そこで、弁護士が、手待ち時間の過ごし方について会社からどのような指示がされていたか、手待ち時間中に休憩できるような場所があったのか等の事情を会社から細かく聞き取り、送迎と送迎の間の手待ち時間が労働時間に当たるかどうかを検討しました。
結果、労働時間にはあたらないと判断し、裁判でもそのとおり主張を行いました。そして、裁判でも無事、会社側の主張が認められました。
ここでは、本件に関する担当弁護士による見解をご説明します。
退職したと思っていた従業員が、後に不当解雇と言ってくることは珍しいことではありません。
退職勧奨して合意退職してもらったつもりが、あとで解雇されたと主張してくるケースも増えています。また、元従業員から、職場でパワハラなどの問題があったのに、会社が必要な対応をしなかったために退職に追い込まれたなどと言われる場合もあります。
このように双方で認識にずれがあるような場合は、後に不当解雇などと言ってもめることがないよう、退職前に互いの誤解を正す努力が必要です。
そのきっかけになる手段が退職届の提出を求めることです。従業員側が自主退職と認識していないような場合は提出がされず、認識のズレを知るきっかけになりなります。
一方、退職届が無事に提出がされれば認識のずれはないと判断できますし、万が一、後で「解雇された」と言われても、退職届が提出されている以上、そのような主張は裁判所でもまず認められません。
いずれにしても従業員の退職後、退職届を求めずに放置するようなことはあってはなりません。
本件のように従業員が一方的な主張を繰り返し、退職前に話し合いをしてもまったく平行線であるような場合は、もう一歩踏み込んだ対応が必要です。
退職届を求めるだけでは結局何も提出がされずに辞めていってしまい、後に解雇だと争われても資料としては何も残っていないことになるからです。
この場合は、退職前の話し合いの内容など、退職に至る経緯も含めて書面で残しておく必要があります。
その一例が前述の通り退職前の話合いの内容も記載した書面で、退職届の提出を求めることです。こうしておけば、従業員が一方的な主張を繰り返し、その挙句に勝手に辞めて行った経緯を証拠として残すことができます。
本件では、事前に弁護士が問題になる危険を察知し、退職の経緯を記載した書面を送付することを会社に助言しました。書面の送付に当たっては、会社から事情をききとり弁護士が書面を作成しました。
本件のような人の送迎や荷物の運搬などの運転業務では、送迎や運搬の間の手待ち時間が発生します。
それが少なくない時間である場合は、この時間が労働時間にあたるかがよく問題とされます。手待ち時間が労働時間にあたらないというためには、判例上、単に労働をしていないというだけでなく、使用者の指揮命令から解放されていたことが必要とされています。
わかりやすく言えば、その時間を寝て過ごしていてもよいと言えるような場合は、手待ち時間は労働時間にあたりません。
この点は、以下の点を考慮して判断されます。
本件では弁護士が上記の考慮要素を踏まえて、会社から事情の聞き取りを行いました。
すると、会社では休憩もできる事務所を設置し、運転手は手待ち時間はそこに帰ってきて休むことができたことがわかりました。また、入社時に、業務は4時間程度で長くないため給料はそこまで多くない、手待ち時間は家に帰る等どのように過ごしてもらっても自由であると説明していることもわかりました。
これに対して従業員も、両親の介護があるため自由時間が多い仕事はありがたく自分の状況にぴったりのいい仕事が見つかったと答えていたこともわかりました。
以上の事実から、本件では手待ち時間は労働時間にはあたらないと判断しました。
その旨を弁護士から説明しましたが、従業員は納得せず最終的には裁判となりました。
解雇予告手当については、会社は解雇をしておらずそのような誤解をされる言動もしていなかったため、まったくの言いがかりのような請求でした。
裁判では、弁護士が作成して送付した書面が証拠となって退職の経緯を示すことができ、自主的な退職であったと認められました。
また、残業代についても、もともとの業務量が少ないことに加え、手待ち時間についても上記事情を説明し、こちらの主張が無事に認められました。
結果、こちらの主張が全面的に認められ勝訴することができました。
今回のケースは、早い段階で弁護士がかかわることができていたため、後に紛争になった際のことを考えて証拠を作ることができました。
早期に弁護士がかかわることで事前にトラブルを回避できたり、または今回のように後の紛争を優位に進めることができるようになります。
問題が生じてから弁護士に相談しても時すでに遅しということも少なくありません。安定した企業経営のためには日ごろから気軽に弁護士に相談できる環境があることが必須です。
また、もしトラブルが発生したときは裁判になる前にできる限り早期に弁護士にご相談ください。
裁判で正しい判断をしてもらうためには、裁判前のトラブル段階から弁護士に依頼して必要な証拠を事前に確保しておくことが重要です。
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