今回の解決事例で書かれている内容(目次)
「歯科医院」の事例です。
本件は、歯科医院の受付として中途採用した職員の能力不足が著しく、患者からクレームが出たり、他の職員に悪影響を与えていた事案です。
事案の詳細は以下のとおりです。
そこで、職員への今後の対応を相談するため、咲くやこの花法律事務所に来られました。
顧問契約を締結し、弁護士が、院長に対して指導方法や指導記録の付け方、試用期間満了日の対処の仕方を継続的にアドバイスしました。
院長や指導スタッフがアドバイスに基づき指導を行った結果、試用期間満了日の退職勧奨で合意による退職に至りました。
本件で弁護士が取り組んだ対応内容について、以下で詳しく解説いたします。
歯科医院からのご相談の際に、弁護士は、問題となっている職員の経歴や、歯科医院で採用した後に発生した問題点をヒアリングしました。
その結果、以下の点が判明しました。
試用期間の途中での解雇は、職員に必要な指導をして、新しい職場環境と業務に慣れるまでの期間を十分に与えなかったとして不当解雇と判断されやすい傾向にあります。
そこで、弁護士からは、解雇を急ぐのではなく、まずは試用期間満了まで職員の業務能力の改善・向上を目指して指導を行うことを助言しました。
そのうえで、試用期間満了が近づいても職員に業務能力に改善が見られなければ、本人に自主退職をすすめる退職勧奨を行い、それでも本人が退職を承諾しない場合は試用期間満了後の本採用を拒否するという方針を立てました。
上記の方針のもと、弁護士から、院長に対し、これからの指導方法について、以下の点を説明しました。
問題のある職員には、責任者を明らかにしたうえで、複数の指導担当者をつけることが必要です。
役割分担や、複数の視点からの指導が可能となるためです。また、複数で指導をすることにより、指導担当者の負担軽減にもなります。
指導担当者は、自分の仕事を抱えながら、対象職員への指導も行わなければなりません。指導書の作成にも業務上の負荷がかかります。さらに、ミスを繰り返す職員には粘り強く指導を繰り返し、反抗的な態度をとる場合には強めの指導が必要になります。
これにも精神的な負荷がかかります。このような負荷を1人の指導担当者に負わせることはなるべく避けるべきです。
依頼者の場合は、院長と他の職員の2名でこの職員の指導を担当する体制をとることにしました。
指導にあたって、毎日、対象となる職員に業務日報を書かせることを助言しました。
業務日報には最低限以下の欄を設けることが必要です。
アからエの部分を毎日記載させることで、職員の仕事に対する理解度や、指導に対する理解度をみることができます。
つまり、職員が業務日報に、その日に指導を受けた事項を的確に記載し、適切な改善策を記載しているのであれば、職員が指導事項を理解していたことがわかります。
一方で、指導された内容を正しく記載していなかったり、改善策としておかしなことを記載している場合には、理解が不十分であることがわかります。
理解が不十分である場合には、指導担当者が再度口頭で指導を行ったり、日報にコメントを入れて指導するなどして、改善を促すことが必要です。
依頼者の場合は、職員に上記アからオの事項をA4用紙1枚にまとめた業務日報を終業時に提出させ、院長が確認・コメントをすることになりました。
翌日には、コメント入りの業務日報のコピーを職員に交付し、必要な指導を行うようアドバイスもしました。
指導をしてみると、この職員は、当日指導を受けたことを業務日報に記載しないことが多々あり、その旨をきっちり院長にコメント欄で指摘してもらいました。
指導担当のスタッフには指導記録を付けることをお願いしました。これは、職員の問題行動を記録化して共有することにより、指導に役立てるためです。
同時に、職員に能力の改善がみられず、やむを得ず解雇等が必要になった場合には、職員の能力不足を示す証拠にもなります。
解雇しなければならない場面で、解雇までの指導の記録が残っていなければ、後日、職員から訴訟を起こされたときに、十分な指導をしないまま解雇したとして、不当解雇と判断されてしまう危険があります。
指導記録には、以下の点を記載することが必要です。
依頼者の場合は、上記アからキの事項をA4用紙1枚にまとめた指導書を作成し、院長及び指導担当者が指導のたびに指導書を作成しました。
多い日には、1日の指導書が枚数が5枚を越えることがありましたが、根気強く指導書を作成することをアドバイスしました。
院長には、数週間おきに業務日報と指導記録をもとに面談を行ってもらい、改善がみられない点については直接指導を行うことをお願いしました。
面談に当たっては、面談資料として、職員から以下の点を明らかにする書面を事前に提出させることにしました。
これらを職員に記載させることで、注意指導されたことに対する職員の認識を把握することができます。
注意指導を何度も受けたことが面談資料に記載されていない場合は、なぜ記載していないのかを確認し、そのことも含めて再度、院長や指導担当スタッフから指導を行っていただくことを助言しました。
職員がミスをした場合、指導担当スタッフが単に職員を叱りつけるだけでは指導にはなりません。
なぜその行為が指導対象になり、歯科医院にどのような悪影響を与えるかを説明したうえで、具体的な改善策を伝えるように弁護士から助言しました。
「今日、○○さんは、○○をしていましたが、そのようなやり方ではお客様が不快に思ってしまいます。理由は○○だからです。今後、○○というやり方をしてください。」といように指導を行う必要があります。
職員の業務に対する理解度を測るために、職員に業務チェック表を作成させることも助言しました。
これをすると、職員の理解の程度が明らかになります。
作成された業務チェック表は院長や指導担当者が必ず確認していただき、必要に応じて更なる指導を行うことを助言しました。
弁護士から上記の点を院長に説明しましたが、実際に実行していくにはさまざまな困難が予想され、弁護士によるサポートが必要です。
そこで、相談の結果、歯科医院と顧問契約を締結したうえで、弁護士が、院長や指導スタッフをサポートすることになりました。
指導期間中は、院長から毎週末にその週の業務日報と指導記録を弁護士までメールで報告をしてもらいました。
それをもとに、弁護士から院長に対して、指導方法をアドバイスしました。
職員のミスは多岐に及び、指導書の枚数は100枚を越えました。
具体的には以下のようなものがありました。
これらの問題点に対してどのように指導を行うのかが、非常に重要です。
特に、問題点の中には、指導をするまでもなくやってはいけないことが明らかものも多く、それに対してどのように指導すればよいかわからず、指導内容があいまいになりがちでした。
しかし、ダメなことが明らかなことであっても、「~の理由で業務に支障が生じること、~の理由でダメなこと」を説明の上、「~の方法で改善するように」と指導しなければなりません。
職員は、試用期間満了が近づいても同じようなミスを繰り返し、改善の傾向が見られませんでした。
そのため、試用期間満了日に本採用を拒否することになりました。
弁護士から院長に対して、本採用拒否の面談にあたり、これまでの指導記録をすべてまとめて一覧表にすることをアドバイスしました。
そして、本採用拒否を行う場合であっても、まずは本人の自主退職を促す退職勧奨をして合意退職を目指すべきです。
そのため、試用期間満了日の面談に臨むにあたって、弁護士から院長に対して、合意退職できた場合、合意退職ができなかった場合のそれぞれの場合にどのような書類を準備しておくべきか等をアドバイスしました。
各段階でどのように話を進めるべきかについても、具体的なアドバイスをした結果、本人と院長との面談において、合意退職が成立しました。
以下では、担当弁護士の見解について詳しく解説していきます。
試用期間中であれば、正社員としての適格性がないと判断すれば、自由に解雇できると思われがちです。
しかし、試用期間中であっても職員との間に雇用契約が成立していることに変わりなく、試用期間中の解雇が後日の裁判で不当解雇と判断されて企業側が敗訴しているケースは多数にのぼっています。
試用期間や試用期間満了による解雇(本採用拒否)についての注意点をまとめると、以下の通りとなります。
以下の理由から、試用期間中の解雇は、横領等のひどい解雇理由がある場合を除き、避けるべきです。
試用期間満了時においては、以下の最高裁判例でも、通常の解雇よりも、やや広い範囲における解雇が認められています。
※ここでいう、「留保解約権に基づく解雇」とは、試用期間満了時の本採用拒否のことです。
したがって、問題職員が試用期間中の場合は、よほど重大な解雇理由がない限りは、試用期間の途中で解雇するのではなく、試用期間の満了をもって本採用を拒否すべきです。
せっかく職員を指導しても、指導方法が不適切であったり、指導内容が記録化されていなければ、本採用拒否後に職員から裁判等をされた場合に不当な本採用拒否として会社が敗訴します。
実際の多くの企業が敗訴して多額の金銭の支払を命じられています。
そして、問題のある職員に適切な指導を行い、それを記録化していくのは負荷が大きい仕事です。
弁護士の適切なアドバイスのもと、先を見通し、正しいと思える方法で行っていかなければ、継続して行うことはできません。
今回の依頼者も、真剣な指導にもかかわらず、一向に改善の姿勢を見せない職員に対して、疲れ果てていました。
弁護士がアドバイスを行い、先の見通しを説明し、ときには勇気づけることで、最後まで指導を行うことができました。
試用期間が終わった後の本採用拒否が通常の解雇よりも、広い範囲で認められるといっても、本採用拒否が不当とされ使用者側が敗訴している事例も多数あります。
そのため、本採用拒否をしてよい場面かどうかについては弁護士による専門的な判断が必要です。
本採用拒否が有効と判断されるだけの事情があるかどうかは、会社や業態によって全く異なるため、裁判例を検討の上、事案に応じて判断しなければなりません。
本件では、依頼者から早い段階で相談を受け、弁護士が必要なアドバイスを行いながら、職員に対して指導を行うことができました。そのこともあり、依頼者は試用期間満了日には十分な対策の上、職員との面談に臨むことができました。
本件では、試用期間中のまだ指導できる期間が十分ある段階からご相談をいただけたことで、職員に対して十分な指導を行うことができました。
結局、退職勧奨により合意退職となったため、本採用を拒否するところまではいきませんでした。
合意退職に至ったのは、それまで院長らが、弁護士のアドバイスのもと、職員を改善させるために、自信をもって本気で職員を指導し、真剣に向き合ってきたからこその結果です。
今後の裁判等のリスクが少ない合意退職という方法で職員を退職させることができ、本当に良かったと思います。
なお、問題社員の指導や試用期間中の従業員の解雇については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
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